2013年09月30日

雪姫

白い衣に置き去りにされた関節は
骨の折れた傘のように ひらかない
尾てい骨のあたりにできた 床ずれから
黄色い海が 沁みだしたら
果実が腐敗して 黒味を帯び
骨まで むき出しになるだろう

血止めの薬を 塗ってみても
暖房のない部屋で
氷のように凍てついた血液は
腐乱の花を そろりそろりと広げていく
セメントのように 固まった股間に
排泄物を受ける 紙のものを当て変えるたび
ふるえた悲鳴が 鉛色の雪雲まで届いていた

液体にならない涙が 蒸発して
雪おこしの風を 呼び覚ます
痛いと言えない言葉が
ごめんなさい
ごめんなさい
狭い肩身を 濡らしていた
治ることよりも 金縛りの体から
ひきちぎれる身の 葬る場所を探していた

かよわく喘ぐ呼吸(いき)のように
窓のすき間から 雪風が流れこみ
雪は 降りだしていた
貴女の叫びを 無音に洗い流していくように
ごめんなさい
そう 呟いていた

白い髪に蒼白く痩せた肌が ふわりと舞い降りて
小皺の散らばる貴女の口から 吹雪く雪の花びら
窓ガラスに降りそそぎ 結晶をえがく瞬間に消えていく
またたくまぶたの裏側に 明日の銀世界を浮かべて

舞い降りる
ごめんなさい
そう 呟いて

消えていく
ありがとう
そう 囁いて




posted by 水月 りら at 22:26| | 更新情報をチェックする

影踏み

サイドシートにこしかけた
よこがおは薄く消えていた
残り香とぬくもりだけ 漂って
見当たらない影を
えがこうとしていた
空に影なんて あったかな、と
見つからないものを
見渡していた

遊歩道に落ちた
銀杏並木の ゆれる葉陰を
踏み歩きながら
あかね色の夕陽に のびていく
ぽっかり空いた空間には
消えたものでしか埋まらない
形を覚えた抜け殻が
失った輪郭に彷徨っていた

踏み込むことのできない 
じぶんの影に
ひとかけらのあなたを埋葬した

眠る残照を抱いて
いつまでも
黄昏にすりきれてゆく
待っていた まるい月と
じゃんけんをして
えいえんに相子のまま
ゆがむ時空の
影を踏む



posted by 水月 りら at 22:23| | 更新情報をチェックする

三日月のなみだ

潮風に
はるか彼方の六等星で暮らそうと
プロポーズされた三日月は
銀河鉄道の片道切符を買って
海に 堕っこちてしまったの

人魚の肉を食べたら
いつまでも三日月でいられるから
人魚の肉を食べようとしたけれど
海のものが どうしても三日月の口に合わなくて
潮風だけが 人魚の肉を食べてしまったの

人魚の肉を食べてしまった 潮風は
いつまでも潮風のままで 海を守らなくてはならない
人魚の肉を食べられなかった 三日月は
明日は三日月でなくなってしまう

最後のお別れに
三日月は なみだを
巻貝に閉じこめて 夜空へと還ってしまったの

遠い古のことだけど……
巻貝に 耳をあててみたら
三日月のなみだが 奏でる
潮風の音色が

耳の銀河の果てに
ひびいているよ




posted by 水月 りら at 22:20| | 更新情報をチェックする

ひとつぶの手紙

冬枯れの野で 風を待っている
きっと この日のことを
たんぽぽは 知っていた
真綿の旅立ちに 祈りをこめて

やわらかな風に 吹かれ
まるい陽だまりに 抱かれ
風と風のあいだに
のどかな波を らくがきして
おさない気球のように

あぜ道を えらんでも
コンクリートのすき間を えらんでも
ちいさな種が 根づいて
黄色い花を 咲かせていける

ほら 次の風で飛んでいく
残された わたしは
立ち尽くす しおれた一本の
燃え尽きた マッチ棒のように

にじむ朝焼けに 見送っている
うるむ夕焼けに 見守っている

手ばなす 手のひらから
こみあげる露が こぼれ落ち
土の根に うづくまる

きみが はじめての種を宿したら
吹きわたる綿毛が 届けてくれる
ひとつぶの手紙を 待っているわ

初霜を 素足で踏みしめて
木枯らしに こぶしのぬくもりを溶かし

ゆるがない空の 移ろいに

色づいても
色あせても



posted by 水月 りら at 22:19| | 更新情報をチェックする

しゃぼんだま

こわれないように
ゆっくり ふくらませていた
おおきく ふくらむように
ストローの さきから
はなれないように
ほそく
ながく
よわい
といきで
はじけそうな あわを
まもっていたよ

いつも 
いっしょにいたのに
きこえていたのに
だいすきだったから
とどいていたのは きみのこえ

プツンと とばし
なぐさめていた かぜのまよいご
つぎに ふくらむ
やくそくをしないまま

どこまで とんでいけるのか
たしかな みらいを
かぜにのせて だれを
あいしていたのか
ふくらせるたびに 
ぼくらは きづく 

ながれのまま
しぜんに うかんだ
まるいじかん
あらいたての 
ちりとほこりに ふれて
まぼろしがきえるほど
ほんとうのぼくらに
であう

あいたいと
ふくらむ いきをふき
おやすみと 
うかべる いきをふく

こわれて
あわいしずくが はちきれる
なくなったのは
うらがえしの いつわりだけ
まぶたに やきついた
いとゆうの しゃぼんだま




posted by 水月 りら at 22:17| ポエム | 更新情報をチェックする

マッチ売りの少女

ネオン街の喧騒の
ほんのり明るいすき間から
マッチ売りの少女が浮かんでくる
生地の薄くなったドレスを着て
マッチを買ってくださいと
あどけなく笑っていた

燃やしたいものは何もないから
マッチはいらないよと言うと
マッチの炎では何も燃えないわ
そう言って首をかしげた
マッチ売りの少女と出逢う

小さな炎が何かに燃えうつり
たちまち大きな炎になってしまう
だから マッチはいらないよと
もう一度 答えてみると
それは、炎に気を配らないからよ
真顔で少女が呟いた

その眼差しに吸い込まれるように
ぼくは籠ごとマッチを買ってしまった
器から溢れるほどのマッチ箱
今どき 誰も使わない

そう言えば 物語のマッチ売りの少女は
死の瞬間 一番逢いたかった
おばあさんの幻を見ていたっけ
消えないように何度も何度も
マッチを擦っていた
死の直前までマッチを擦り尽くしていた

覚えておきたいものに火を灯し
より鮮明に 記憶が炎になるほど
忘れてしまいたいものは 炎に燃やされて
無くなっていったのかもしれない
凍える雪に 冷たく
かじかんだ手足の指をしていても
少女は 笑って死んでいったから

死の瞬間 ぼくも
この籠いっぱいのマッチを
擦り尽くしているだろう
ひと粒の炎に生きていた
ひとコマの幻が 
次から次へと映ってゆく
覚えておきたいもの
忘れてしまいたいもの
灯しておきたいこと
燃やしてしまいたいこと
気を配れば 炎はあたたかく
導きは迎えに来てくれる
たった一度しかない死だと
思い込んでいた偽りを
解き放ち

少女が消えたネオン街の道端に
もう火のつかない煙草の吸殻が
数え切れないくらい捨てられていた

その吸殻のひとつが
ぼくであったとしても
ひと粒の炎に笑って死んでいく
一度かぎりの死でありながら
いくつもの死を超えてきた魂は
少女のマッチの炎を信じたぼくを
祝福してぼくの死に
消えない炎を灯してくれるだろう

posted by 水月 りら at 22:14| | 更新情報をチェックする

共鳴

風鈴の 釣鐘と
垂れ下がっている金属性の棒が
呼び合って 音色になる

水面(みなも)は 触れる風と
呼び合って
漣になり 荒波になる

指を動かす意思と
ピアノの鍵盤、
あるいは ギターの弦は
呼び合って メロディーになる

お鍋で 炊き上がる
具材は 呼び合って
出汁(だし)が混ざり合い
まろやかな味となる

形のない力の刺激は
形あるものを 呼び覚まし 
共鳴を 証にする

あなたとわたしの共鳴
表情になり 声になり
言葉になり 歌になり
味になり
光と影が 奇跡のように
融合する地点で
拍動の源が
めぐる血の流れの
速度を 同じにして
血潮を熱くする
共に

無形の融合地点で
共鳴が 生まれ
力が育ち
形を 築いていく
たとえ それが壊れても
無形の絆は
壊れない
あなたと
わたしの


posted by 水月 りら at 22:09| | 更新情報をチェックする

2013年09月16日

はる

凍てつく木枯らし
 凍える ゆびの先
 この冬を 耐え忍ぶ
 桜の 青い蕾のように
 はるが 待っているから

オーディションに合格してから
東京に上京して
プロダクションと契約を交わし
あなたの歌は 瞬く間に流行りだす

 消えることを 絶ちきれず
 名残の雪が 街を白く染め
 はるのすきまに こぼれ落ち
 待ちわびたものは 遠ざかり

あの頃と変わらない 何ひとつ
テンポが速くても遅くても 
あなた独特のコード進行で
ながれるアルペジオ

一緒にバンドを組んでいた頃は
あなたのメロディーに
歌詞をつけていた みんなで
だけど あなたは
わたしの書いた歌詞を
いつも選んでいた
他のメンバーが どんなに
わたしの歌詞をけなしていても
おまえの書いた詩
なかなかいいよと 言いながら
半分はあなたの言葉
半分はわたしの言葉
そうして歌を作っていた

東京に行ったら ひとりで
歌詞が書けるかなあ
おまえがいないと不安なんだけど……
作詞のために わたしは必要なの?
それだけなんだと思って 目を伏せた
勝手にしたら……
そう言って走り出した わたし

 桜は はるの幕開けさ
 桜散るたび はるは艶やかに
 芽が伸び 緑が深く
 はるが熟して ぼくを呼ぶ

この街から旅立つ 最後の日
おまえも がんばれよ
そばにいることだけが絆じゃないよ
一緒に歩けなくても
忘れずにいたら それが絆だよ
見送るわたしの手を握る あなた
その手を解いた わたし
あなたの夢見心地の
綺麗事がキライなの!
駅の階段を 昇りながら
くちびるを 噛みしめていた

おまえ 詩を書いていろよ
列車のドアが閉まる寸前に
あなたは 咄嗟に言う
さよならが 言えない
もう わたしは詩を書かないの
閉まるドアに 叫んだわたし
発車ベルで わたしの声は消えたかも
流れるように 列車は遠ざかった

 道端に寄せられた雪は
 黒く汚れて 積みあげられる
 はるが消していくよ
 白かった雪の 黒い涙

何度も あなたの歌が
ヒットするたびに
街に流れる あなたの歌
密かにCDを買う
自分が悔しかった

あれは5年前
海外ライブへ向かう
飛行機が 墜落して
あなたは いなくなる

 白い花が咲くから
 桃色の花が咲くから
 紅い花も咲くから
 色とりどりの はるが好き

悲惨な飛行機事故
あなたの死の衝撃
テレビ、雑誌、新聞、
全ての報道に 話題になるあなた
街中 あなたの歌を繰り返し
テレビ ラジオ も
あなたの歌で 溢れていた
生きているときに これほど
騒がれたら あなたは
もっと うれしかったかもしれないね

はるの歌が 多いですね
はるの歌が お好きなんでしょうか?
いつかのインタビューに
ぼくは はるが好きなんです
にやけて答えていた あなたが
バカバカしくなって
テレビを プチッと消していた

歌っている ラブソング
あの頃 わたしに歌ってくれた歌と
ちっとも 変わってない
もう 別の彼女が好きなこと
わかっていたけど 新しい彼女にも
同じこと言っているのね
ワンパターンなんだから
って 気にしていない振りしてた

 夏が来ても はるを呼ぶ
 秋が来ても はるを追う
 冬が来たら はるを待つ 
 はるが来たら 抱きしめる

はるの歌ばかり……
もう二度と会うことは ないのに
今日も有線から あなたの声が
流れてくる
誰かが リクエストしている
はるの歌……

はる……
ほんとうに 季節の春だったのか?
あの頃 はると呼ばれていた
今はもう誰も呼ばない わたしの名
とっくに忘れていた わたしの名
歌うことが 絆だったの?

はる……
わたしの名前だったの?






posted by 水月 りら at 21:08| | 更新情報をチェックする

白いぞうきん

ぞうきんになる前は 
やわらかいタオルだった

顔を拭いていた
手を拭いていた
ときどき 
おとうさんが肩に巻いて
汗を 拭いていた
ときどき 
おかあさんが頭に巻いていた
炎天下で 焼けないために
ときどき 
おにいさんが振り回し
ともだちどうし ふざけていた
ときどき 
おねえさんが誰にもないしょで
なみだを拭っていた
いつも誰かのそばにいて
誰かの仕草を受けとめて
ふわふわっとしたはだざわりを 
みんなにあげていたから
タオルは 少しずつやせて

四つに折って縫い合わせ
白いぞうきんに生まれ変わる
そうして まだまだ はたらいていた

暮らしは 汚れをお連れにする
息を吹くと埃が舞いたって
放任するとこびりつき 煤の吹き溜まり
家のそとまわりも 
まんまかも 
すみっこも
暮らすほど汚れては 老い果てる

ぞうきんは いつも
暮らしの汚れを吸いこんで
せっせと すくった悪臭に
だんだんだんだん 白を失って
水でこすっても 黄ばんでいく
石けんで洗っても 黒ずんでいく
やがて 真っ黒になって
捨てられて

生まれたままの 白さは
どんなものにも なじみながら 
どんなところにも まぎれながら
どんなふうにも よどみながら
ひとが捨てた汚れに
ほほえみ ねぎらっている
白いままで生きてるなんて
つまらなかったよと

使うほど 糸がのびて
ボロボロになっても ぞうきんは
汚れたものに 純白を差し出して
みんな きれいにしてあげる
ぞうきんに生まれて良かったよと
ぞうきんは幸せになっている

だれも気づいていない
だれも知らない
だけど
ぞうきんの
ほんとうの姿は
とっても強く
もっとも美しい
神さまの化身だった



posted by 水月 りら at 21:06| | 更新情報をチェックする

追憶

君は どこに行ってしまったのだろうか
あの空のむこう
あの海のむこう
こたえのない波が よせてはかえる
つづく松並木
まぎれた 君のためらい
天(あま)の橋は どこに繋がったのだろうか

あの七夕の宵
ゆれる笹飾りに ねがいごと
こぼれ落ちた むすうの涙のひと粒は
星のすきまの闇をながれ
漆黒の波をくぐり
すきとおる翼を ひろげていく

かぎりなくとうめいな
潮風になることで
人の汚れを ゆるそうとした
君の 決意

君がわたる 天の橋
涙であふれた星の河に 身をなげて
君の時間だけ とぎれていった
人をやめてしまった 君のねがい

あれから
僕はひとり老いながら
僕はひとり濁りながら
かすかな蛍火 守っていたよ

今年もまた めぐる笹飾りに
ねがいを えがく
砕けたガラス色の血をながし
松並木を ふきぬける

潮風のぬくみを 想って……




posted by 水月 りら at 21:04| | 更新情報をチェックする

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