2013年09月16日

はる

凍てつく木枯らし
 凍える ゆびの先
 この冬を 耐え忍ぶ
 桜の 青い蕾のように
 はるが 待っているから

オーディションに合格してから
東京に上京して
プロダクションと契約を交わし
あなたの歌は 瞬く間に流行りだす

 消えることを 絶ちきれず
 名残の雪が 街を白く染め
 はるのすきまに こぼれ落ち
 待ちわびたものは 遠ざかり

あの頃と変わらない 何ひとつ
テンポが速くても遅くても 
あなた独特のコード進行で
ながれるアルペジオ

一緒にバンドを組んでいた頃は
あなたのメロディーに
歌詞をつけていた みんなで
だけど あなたは
わたしの書いた歌詞を
いつも選んでいた
他のメンバーが どんなに
わたしの歌詞をけなしていても
おまえの書いた詩
なかなかいいよと 言いながら
半分はあなたの言葉
半分はわたしの言葉
そうして歌を作っていた

東京に行ったら ひとりで
歌詞が書けるかなあ
おまえがいないと不安なんだけど……
作詞のために わたしは必要なの?
それだけなんだと思って 目を伏せた
勝手にしたら……
そう言って走り出した わたし

 桜は はるの幕開けさ
 桜散るたび はるは艶やかに
 芽が伸び 緑が深く
 はるが熟して ぼくを呼ぶ

この街から旅立つ 最後の日
おまえも がんばれよ
そばにいることだけが絆じゃないよ
一緒に歩けなくても
忘れずにいたら それが絆だよ
見送るわたしの手を握る あなた
その手を解いた わたし
あなたの夢見心地の
綺麗事がキライなの!
駅の階段を 昇りながら
くちびるを 噛みしめていた

おまえ 詩を書いていろよ
列車のドアが閉まる寸前に
あなたは 咄嗟に言う
さよならが 言えない
もう わたしは詩を書かないの
閉まるドアに 叫んだわたし
発車ベルで わたしの声は消えたかも
流れるように 列車は遠ざかった

 道端に寄せられた雪は
 黒く汚れて 積みあげられる
 はるが消していくよ
 白かった雪の 黒い涙

何度も あなたの歌が
ヒットするたびに
街に流れる あなたの歌
密かにCDを買う
自分が悔しかった

あれは5年前
海外ライブへ向かう
飛行機が 墜落して
あなたは いなくなる

 白い花が咲くから
 桃色の花が咲くから
 紅い花も咲くから
 色とりどりの はるが好き

悲惨な飛行機事故
あなたの死の衝撃
テレビ、雑誌、新聞、
全ての報道に 話題になるあなた
街中 あなたの歌を繰り返し
テレビ ラジオ も
あなたの歌で 溢れていた
生きているときに これほど
騒がれたら あなたは
もっと うれしかったかもしれないね

はるの歌が 多いですね
はるの歌が お好きなんでしょうか?
いつかのインタビューに
ぼくは はるが好きなんです
にやけて答えていた あなたが
バカバカしくなって
テレビを プチッと消していた

歌っている ラブソング
あの頃 わたしに歌ってくれた歌と
ちっとも 変わってない
もう 別の彼女が好きなこと
わかっていたけど 新しい彼女にも
同じこと言っているのね
ワンパターンなんだから
って 気にしていない振りしてた

 夏が来ても はるを呼ぶ
 秋が来ても はるを追う
 冬が来たら はるを待つ 
 はるが来たら 抱きしめる

はるの歌ばかり……
もう二度と会うことは ないのに
今日も有線から あなたの声が
流れてくる
誰かが リクエストしている
はるの歌……

はる……
ほんとうに 季節の春だったのか?
あの頃 はると呼ばれていた
今はもう誰も呼ばない わたしの名
とっくに忘れていた わたしの名
歌うことが 絆だったの?

はる……
わたしの名前だったの?






posted by 水月 りら at 21:08| | 更新情報をチェックする

白いぞうきん

ぞうきんになる前は 
やわらかいタオルだった

顔を拭いていた
手を拭いていた
ときどき 
おとうさんが肩に巻いて
汗を 拭いていた
ときどき 
おかあさんが頭に巻いていた
炎天下で 焼けないために
ときどき 
おにいさんが振り回し
ともだちどうし ふざけていた
ときどき 
おねえさんが誰にもないしょで
なみだを拭っていた
いつも誰かのそばにいて
誰かの仕草を受けとめて
ふわふわっとしたはだざわりを 
みんなにあげていたから
タオルは 少しずつやせて

四つに折って縫い合わせ
白いぞうきんに生まれ変わる
そうして まだまだ はたらいていた

暮らしは 汚れをお連れにする
息を吹くと埃が舞いたって
放任するとこびりつき 煤の吹き溜まり
家のそとまわりも 
まんまかも 
すみっこも
暮らすほど汚れては 老い果てる

ぞうきんは いつも
暮らしの汚れを吸いこんで
せっせと すくった悪臭に
だんだんだんだん 白を失って
水でこすっても 黄ばんでいく
石けんで洗っても 黒ずんでいく
やがて 真っ黒になって
捨てられて

生まれたままの 白さは
どんなものにも なじみながら 
どんなところにも まぎれながら
どんなふうにも よどみながら
ひとが捨てた汚れに
ほほえみ ねぎらっている
白いままで生きてるなんて
つまらなかったよと

使うほど 糸がのびて
ボロボロになっても ぞうきんは
汚れたものに 純白を差し出して
みんな きれいにしてあげる
ぞうきんに生まれて良かったよと
ぞうきんは幸せになっている

だれも気づいていない
だれも知らない
だけど
ぞうきんの
ほんとうの姿は
とっても強く
もっとも美しい
神さまの化身だった



posted by 水月 りら at 21:06| | 更新情報をチェックする

追憶

君は どこに行ってしまったのだろうか
あの空のむこう
あの海のむこう
こたえのない波が よせてはかえる
つづく松並木
まぎれた 君のためらい
天(あま)の橋は どこに繋がったのだろうか

あの七夕の宵
ゆれる笹飾りに ねがいごと
こぼれ落ちた むすうの涙のひと粒は
星のすきまの闇をながれ
漆黒の波をくぐり
すきとおる翼を ひろげていく

かぎりなくとうめいな
潮風になることで
人の汚れを ゆるそうとした
君の 決意

君がわたる 天の橋
涙であふれた星の河に 身をなげて
君の時間だけ とぎれていった
人をやめてしまった 君のねがい

あれから
僕はひとり老いながら
僕はひとり濁りながら
かすかな蛍火 守っていたよ

今年もまた めぐる笹飾りに
ねがいを えがく
砕けたガラス色の血をながし
松並木を ふきぬける

潮風のぬくみを 想って……




posted by 水月 りら at 21:04| | 更新情報をチェックする

海の瞳に

戦士を見送る 桜の花は
海のまつ毛に 咲き乱れ
海のまばたきに 時を知り
海の瞳に 散っていく


posted by 水月 りら at 21:02| ポエム | 更新情報をチェックする

口にしなくても

くろい雲に
かくれている 星を
見つけている  あなた

雨のように
枯れかけた花にも
しずくを 降り注ぐ

足元に咲いている
ちいさな雑草を
かがんで さがしている

風で消えそうな
ろうそくの炎があれば
りょう手をかざし
炎を つつみこむ

拍手をあびながら
歌うことよりも
だだっ広い原っぱで
ちいさな虫に 
歌うことが 好きなあなた

そんなあなたに
口にだして 言えないこと
たくさん あります

蜘蛛の糸のような
かよわい距離が ことばで
こわれてしまわないように

いつまでも あなたの歌が
大地を這って
歌い継がれていくことを
ねがいます

そして
あなたの ひたいを
流れ落ちる ひとつぶの
汗で いさせてください

たったひとつの
わがままです

流れ落ちる汗なら
じゃまに ならないでしょう
いつでも 消えていけるでしょう

口にしなくても
あなたのそばに いられそうだから





posted by 水月 りら at 21:00| ポエム | 更新情報をチェックする

金木犀

金木犀の薫り たちこめる頃
薫る風にさそわれて
南からあなたはやってきた
北からわたしはたどりついてきた
彼方から届く
きよらかな薫りに魅せられて 
ぐうぜんに出逢う
あなたとわたし

おなじ薫りに惹きつけられ
おなじ花影(はな)に見とれて
異国のことばをかわし
惹かれあう

時は重なり 背丈の伸びた木に
金色の花が満開に咲いた頃
匂う風にいざなわれ
交叉点を立ち止まる
ただよう薫りをたぐりよせ
三叉路にふりかえる
黄昏のいたずらにはぐれても
薫る行方をたしかめて
再び ぐうぜんに出逢う
あなたとわたし

おなじ薫りをもとめあい
おなじ空気をすいこんで
ことなる温度をつたえあう

花の薫りがこぼれ散り
木陰が金の亡がらに埋もれても
おなじ花風に惹かれあい
おなじ指先をむすびあい
ぐうぜんに出逢う
あなたとわたし





posted by 水月 りら at 20:54| | 更新情報をチェックする

バタフライ―ストライプの羽根―

問いかけに答えられなくて
したたり落ちた黒い雫
呼びかけに答えていたくて
滲みでた白い泡
あなたを困らせていたね

さなぎのまま
そばに いたかったよ

涙を呑みこんだ偽りに
どんな裁きを 受けても
恐くは ないよ

ひらく羽根の純白に
あなたが見つめる空を
編みこんで
とじる羽根の漆黒に
あなたを濡らす雨だれが
沁みこんで

あなたがくれた縞(スト)模様(ライプ)

天にほどいて
野を飛び
花から葉へ
灰色の地に
舞い乱れ
奈落にむすび
風に向かい
雨に打たれ
吹き荒れる嵐に
舞い上がる


posted by 水月 りら at 20:50| ポエム | 更新情報をチェックする

木漏れ日

―枯葉たちー

だれも知らない 
雑木林には
枯葉たちの
眠る場所がある

折れた小枝
墜ちた木の実
ちぎれた枯葉

要らなくなったものたちが
木の根元で しずかに
眠っている
土に溶けて
腐葉土になり
木が生きていく力に
生まれ変わってゆくのだろう

繁る葉の間から
射す 木漏れ日
光は 分け隔てなく
眠ってゆくものたちにも
そっと 降り注いでいる



―白妙菊―

白妙菊の葉先に
降りそそぐ 木漏れ日

形のない光は
形あるものに 息を吹きこみ
目覚めた 銀の縁どりは
ひと束の 息を吐く

ちいさな指先に こぼれた光は
ちいさな指先に 生まれかわる
形ある 人の体に
形のない魂が 宿っているように

木漏れ日は 魂を降りそそぐ
白妙菊の葉先が 光る
はじめて覚えた 白い言葉
輝きだした 命の輪郭



ーせんめいに あいまいにー

窓を見つめた光が
まぶしくて うつむいた

足元に こぼれた光
窓の分身を 床に落として
まっすぐな影と
らせんの影が
交叉する

光は なんて
おおらかなのだろう
すべてのものの影を
そのまま 映さない

窓の形も テーブルの脚も
ガラスにゆれる 妖精たちも
それぞれの影を 描いている
かくれた足元に

のぴやかな光は
たしかな存在を照らし
影の命を 映しだす
せんめいに
あいまいに




ーよつばのクローバー―


くったくが なくて
きさくで きどらなくて
こかげで ほほえんでいる
ひだまりを りょうてでつつみ

どこにでも はえているようで
どこにでも はえていなくて

だれにでも うたえそうで
だれにも うたえないうたを

よつばのクローバーを
まとう うたひめは

スプーンいっぱいの こもれびで
そらいっぱいに あなたにうたっている

つちにこだまする
あしあとのメロディーを
ちきゅうのうらがわまで
あなたにうたっている


キャンディひとつぶの こもれびで



posted by 水月 りら at 20:44| ポエム | 更新情報をチェックする

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