2013年09月30日

見当たらない

ゆうちゃんが
青い顔して何かをさがしている

おかあさん 
ゲームソフトが失くなったぁ
遊びにきてたさとし君に
盗られたんだぁ

くちびるとがらせて ゆうちゃん
ひとみはうるんで 
にぎりこぶしで こらえている
おかあさんは しゃがみこんで
ゆうちゃんの右肩から 
声をかけていた

だって 
まっしょうめんから向き合うと
ゆうちゃん ほんとのこと
言えなくなってしまうから
ゆうちゃんったら 
さがしもしてないのに
すぐに 失くなったぁ、だ、なんて
ゆうちゃんったら 
見てもいないのに
すぐに 盗られたんだぁ、なんて

ゆうちゃん
失くなったわけでも 
盗られたわけでもないでしょう
見あたらないって 
言ってみようか
まぁるく ひびくでしょう

見あたらない
聞きなれない言葉は 
卵から孵ったヒナのように 
ゆうちゃんの頭を
ぐるぐる歩きまわっていた
見あたる 見あたらない


言葉にはコインのように裏表がある
裏に隠れた、見あたらない、という奴は
こたつに閉じこもって 
昼寝ばかりしていても
いざという 学芸会の舞台で
拍手喝采をあびて汗をかきかき
つたない名台詞を叫んでいるような

おかあさんは
ゆうちゃんの肩を抱いて
遠くを見つめるゆうちゃんの瞳に
語りかけながら
その視界にゆっくりと
ほほえんでいたけれど
おかあさんのお説教もぬくもりも
なんとなく 
わかっていたけれど

ゆうちゃんは 
あたらしく出逢った 
見あたらない、に  
顔がほくほくほころんで

ゆうちゃんはゴソゴソと
ゲームソフトをさがしはじめた
ほんとうは昨日おとうさんが
むぞうさにおいた新聞紙のしたに
かくれているんだけどさ
ゆうちゃん、新聞には興味ないから
見えていないの
明日 きっと出てくるんだけどね
あっ ゆうちゃんが何か言ってる

おかあさん
やっぱり 見あたらないね




posted by 水月 りら at 22:44| | 更新情報をチェックする

かならず おとずれてくる
まどを あけたら
ことりの声と いっしょに
げんかんのインターホンをならして
ドアをあけたら
なに色ともいえない服を着て
ちいさく おはよう、と
ひらいたばかりの はなびらに
こしかけて すきとおる
ひとつぶの露になって
あいさつしている
ひきたてのコーヒーの薫りをつれて
やきたてのパンの匂いに
マーガリンのように よりそって
ジャムのあまさに
てをあわせ ぶじを祈っている

そらのてっぺんに 陽がのぼると
昼と なまえをかえて
やまのかげに 陽がしずんだら
夜と ふたたびなまえをかえて
まるいてんじょうを ひとめぐりして
また おとずれてくる
だれの ところにも
くらやみの幕をあけ
約束していなくても

こんなにりちぎな あなたを
いつか うらぎってしまうのは
わたしなの……

いつか かならず
あなたを むかえられなくなる
あしたの約束できなくて
ごめんなさい

ねむりから 覚めると
あなたのひかりが 射している
あちらの世界で 目覚めても
いまのすがたで おとずれてくれますか?

思考も 
鼓動も
焼きつくされた 灰の粉に
なにも なかったように
にんげんだったころのように
にっこり ほほえんで




posted by 水月 りら at 22:42| | 更新情報をチェックする

待ち人

バスを待っている。いつものようにバスは遅れてくる。それでも、一度もあやまらない。そんなバスを待っていた。

列車を待っている。ほぼ時刻通りに到着する。遅れるときは「何分遅れです」とていねいに連絡があるわりには、レールが破損するとパニックに陥り、到着しない。そんな列車を待っていた。

めんどうだから車を運転する。自ら向かう方角に道は渋滞する。居座る赤信号とあっという間の青信号に追いたてられ目的地を
見失ってしまいそう。

いじわるな交差点で右と左をまちがえて袋小路につきあたり、待っている人を待たせたまま冷や汗をかいているうちに、待ち人は待ち人であることを止めてしまうだろうか。

たちどまる朝もあるきだす午後も今日は笑って明日は泣いたとしても、乗り物を待っているのではなく、待ち受けているものに向かうために待っている。

たとえ逢えなくても待ち続けていると、記憶の風が吹きぬける。時を待ちながら時に待たれているよと、よみ人知らずの歌が風に答えていた。終点は眠れる夢のあなただから。そこから先の行く宛ては、誰も知らないところ。

いつのまにか、バス停のベンチになっている。
アスファルトに舞い立つ砂埃に咳こんで、
見知らぬ顔の過ぎゆく人に声もかけられず。
たまに落ちてくる鳥の糞を「運」に塗り変える。くたびれたら命を洗濯して、バスを待つものを待ちわびていた。

あなたのまどろみがこしかける瞬間を
からっぽにして




posted by 水月 りら at 22:40| | 更新情報をチェックする

華化粧

ほのめく ひとときに
氷雨に濡れた 肌と肌
こすり合わせて 熟れた身を
ゆびのはらに 焼きつけて

すべらせたくちびるの
薄紅散らせ あなたの首筋に
吐いた息から 白い血潮があふれだし
秘めた蜜を むすび合う

からだの輪郭を うばい合い
越えられない境界に 埋もれて
氷柱の距離を たしかめ合う

やがて あわいひだまりの光射し
もたれる重みを 受けとめて
はらはら あつい涙がすべり落ち
もつれた髪が ほどかれる

まばたく睫毛のゆれる ひとときに
からめた あなたのゆびさきの
ちいさな華に なれたなら
遊女に 生まれたことに
悔いは ないでしょう

愛も命も えらべずに
艷色の衣を ぬぎすてて
抱かれて にぎりしめたぬくもりに
こぼれて亡くなる 雫のひとつぶは

あなたに捧げた 雪の華




posted by 水月 りら at 22:37| | 更新情報をチェックする

雪化粧

雪は
舞い堕ちる瞬間から
重なることを 知っています

冬枯れた
地上のノートブックに訪れて
色あせたことばに よりそい
白いガーゼで 塗りかえる

雪は
舞い堕ちる瞬間から
手離すことを 知っています

わすれたいことの
ひとつやふたつに 降りつもり
氷雨に 身をゆだね
とうめいに 色彩を濡らします

雪は
舞い堕ちる瞬間から
失うことを 知っています




posted by 水月 りら at 22:35| ポエム | 更新情報をチェックする

キミにしてみたら

はこのなかの みかんを
ひさしびりに あけてみたら
はんぶんくらい
カビが はえていて
はんぶんくらいしか
たべられなくなっていて

このまま おいていたら
ぜんぶ カビが
はえていきそうだったから
カビの みかんを
おしみながら すててみる

おなじみかんを すきなのに
どうして カビと
はなしが できないのだろうと
でんわを かけてみたけれど
いつも ふざいのおとが
なりひびき

おなじみかんを すきだけど
いきている せかいが
ちがうのか、と
みょうに なっとくもしてみたけれど
カビは ふつうに
みかんを たべただけ
そんなみかんを たべられないわたしが

キミにしてみたら
カビでしか なかったね





posted by 水月 りら at 22:34| ポエム | 更新情報をチェックする

雪人形

初雪の夜、ヒーコが訪ねてきた。豹柄の服がヒーコの定番なのに、今夜はわたしの好きな白いワンピース姿だった。傘もささずに髪に雪が溶けて濡れている。蒼白いくちびるが震えていた。木枯らしに雪が舞い踊る。玄関の戸を閉めるとヒーコは部屋に入ってきた。

タオルを渡すとヒーコは笑顔になり髪を拭いていた。暖房のきた部屋に入っても、ヒーコの吐く息は白かった。ファンヒーターをフルパワーにすると「寒くないわ。アイスコーヒーを飲みたいの」とヒーコは言った。作って部屋に運ぶと、ヒーコは暖房を切っていた。

ヒーコがストローをくわえると、わずかのため息だけが吹きぬけるストローの空洞に、ブ
ラックのラインがスーッと曳かれていく。ヒーコの口びるに、コーヒーは音もなく導かれ、ガラスコップは素早く衣装替えをするように透きとおる。

ヒーコが履いていた赤い靴を思い出し、二階の押入れに取りに行く。取り出してきた靴の箱は黄ばんで湿気ていた。「なつかしいね」ヒーコはにこにこして箱を開けた。萎びた赤い靴は久しぶりに蛍光灯の光にあたり、まぶしそうに目を細めているようだった。

ヒーコは赤い靴を抱きしめる。十七歳の少女の顔から少しも変わらないヒーコを一心に見つめてしまった。わたしは一年毎に年老いていくのに、ヒーコの時計は絵画の風景のように動いていない。針はあの日の時刻を呼んでいる。いつまでたっても更けることも明けることもなかった。

「ハル、ありがとう」そう言いながら、ヒーコは部屋の暖かさに耐え切れず、頭から溶けはじめていく。一滴、一滴、汗をかくように。水滴に変わるヒーコの体は、座布団と畳みを濡らしていた。

いつかのその昔。不治の病に罹ったヒーコは、残り少ない命のために恋人を悲しませたくないと思い、病のことを隠して別れを告げた。櫛の歯を通る髪はするすると抜け落ちていく。治療のきざはしを昇る途中の踊り場から舞い墜ちてしまったヒーコは、見知らぬ樹海に落下したきり。踊り場には行儀よくまっすぐに揃えられていた赤い靴。ヒーコの残したものは、この赤い靴だけだった。

冬になると、灰になったはずのヒーコの柩と風のような面影は、鉛色の空に舞い上がる。雪起こしがヒーコのとうめいの体を、粉々の雪の結晶に変えていく。初雪が積もると、ヒーコのひとひらを拾い集めて、わたしは雪人形を作っている。ヒーコが最期に履いていた赤い靴を祀り、がらんどうの柩が真綿に包まれていることを願って。

雪人形の上半身が水になり、ヒーコが座っていた周りが水びたしになっていた。もう、ヒーコの姿でも雪人形の姿でもなくなった雪のかたまりから、赤い靴が濡れている畳に転がり落ちていく。わたしは、雪のかたまりを両腕で包み、冷たい断片に顔を埋めていた。わたしの体温に溶かされていく、ヒーコ。

(ヒーコ、抱きしめられないね)

窓ガラスに粉雪が降りそそぐ。しんしんとちぎれたヒーコの記憶のひとひらが、まっ暗な夜空から舞い降りてくる。


   



posted by 水月 りら at 22:32| | 更新情報をチェックする

かごめ かごめ

かごめ かごめ

つながれた手の輪が
閉じこめられた かごになる
みえない瞳の鳥が うづくまる
かぶりつづける てのひらのお面
うつぶせた顔が 輪にしずむ
きのうの白は あしたの黒
だれかがひとり 鬼になる

かごの中の鳥は
いついつ出やる

夜明けの晩に
たそがれる月影に
さまよいあるき
よいやみの朝を
さがしはて
あかつきの光は
くたびれて
さじを投げた
時の暮れ

何千年 生きていても
何万年 生きていても
すべってころぶ 鶴と亀
繕ういのちは ひとめぐり
ふたたび ころび
すべって出逢う 鶴と亀

なかよしこよしの 輪の中に
落っこちている 落とし穴
つぎの鬼は だれかと
びしょ濡れの ざしき童子が
ふりむいた

うしろの正面 だあれ?





posted by 水月 りら at 22:29| | 更新情報をチェックする

つるん

飲み干された 
湯のみの内側が
覚えている
飲みものの息遣い
つるんと
記憶がそそがれて

からっぽの
光沢に



posted by 水月 りら at 22:28| ポエム | 更新情報をチェックする

ゆびきり

いちばん 
ちいさな
かよわい
ゆびを
むすびあう

ゆびきり
げんまん

うそ ついたら
はり せんぼん

せんぼんの はりの
はてしない きょりを
いちばん みじかな
こゆびと こゆびで
むすびあっていた

たよりなく 
とうめいな
ふたしかな
ひとしずくの
やくそく

ゆびきり
げんまん
うそ ついたら
はり せんぼん

ゆび きった

ふたたび
あうために
ゆびと ゆびを
ほどきあう

またね、と 
みえなくなるまで
ふりかえり
てを ふっていた
わかれぎわ

はなればなれの すきまに
ひとりぼっちの
じかんを たばねて
てのひらに うかべ
まっている
となりに いたこと
つかのま ふれていた
みずたまの きおく

くものいとで
つむいだ ぬくもりを
ゆびさきだけが
おぼえていた

ゆびきり 
げんまん




posted by 水月 りら at 22:27| ポエム | 更新情報をチェックする

雪姫

白い衣に置き去りにされた関節は
骨の折れた傘のように ひらかない
尾てい骨のあたりにできた 床ずれから
黄色い海が 沁みだしたら
果実が腐敗して 黒味を帯び
骨まで むき出しになるだろう

血止めの薬を 塗ってみても
暖房のない部屋で
氷のように凍てついた血液は
腐乱の花を そろりそろりと広げていく
セメントのように 固まった股間に
排泄物を受ける 紙のものを当て変えるたび
ふるえた悲鳴が 鉛色の雪雲まで届いていた

液体にならない涙が 蒸発して
雪おこしの風を 呼び覚ます
痛いと言えない言葉が
ごめんなさい
ごめんなさい
狭い肩身を 濡らしていた
治ることよりも 金縛りの体から
ひきちぎれる身の 葬る場所を探していた

かよわく喘ぐ呼吸(いき)のように
窓のすき間から 雪風が流れこみ
雪は 降りだしていた
貴女の叫びを 無音に洗い流していくように
ごめんなさい
そう 呟いていた

白い髪に蒼白く痩せた肌が ふわりと舞い降りて
小皺の散らばる貴女の口から 吹雪く雪の花びら
窓ガラスに降りそそぎ 結晶をえがく瞬間に消えていく
またたくまぶたの裏側に 明日の銀世界を浮かべて

舞い降りる
ごめんなさい
そう 呟いて

消えていく
ありがとう
そう 囁いて




posted by 水月 りら at 22:26| | 更新情報をチェックする

影踏み

サイドシートにこしかけた
よこがおは薄く消えていた
残り香とぬくもりだけ 漂って
見当たらない影を
えがこうとしていた
空に影なんて あったかな、と
見つからないものを
見渡していた

遊歩道に落ちた
銀杏並木の ゆれる葉陰を
踏み歩きながら
あかね色の夕陽に のびていく
ぽっかり空いた空間には
消えたものでしか埋まらない
形を覚えた抜け殻が
失った輪郭に彷徨っていた

踏み込むことのできない 
じぶんの影に
ひとかけらのあなたを埋葬した

眠る残照を抱いて
いつまでも
黄昏にすりきれてゆく
待っていた まるい月と
じゃんけんをして
えいえんに相子のまま
ゆがむ時空の
影を踏む



posted by 水月 りら at 22:23| | 更新情報をチェックする

三日月のなみだ

潮風に
はるか彼方の六等星で暮らそうと
プロポーズされた三日月は
銀河鉄道の片道切符を買って
海に 堕っこちてしまったの

人魚の肉を食べたら
いつまでも三日月でいられるから
人魚の肉を食べようとしたけれど
海のものが どうしても三日月の口に合わなくて
潮風だけが 人魚の肉を食べてしまったの

人魚の肉を食べてしまった 潮風は
いつまでも潮風のままで 海を守らなくてはならない
人魚の肉を食べられなかった 三日月は
明日は三日月でなくなってしまう

最後のお別れに
三日月は なみだを
巻貝に閉じこめて 夜空へと還ってしまったの

遠い古のことだけど……
巻貝に 耳をあててみたら
三日月のなみだが 奏でる
潮風の音色が

耳の銀河の果てに
ひびいているよ




posted by 水月 りら at 22:20| | 更新情報をチェックする

ひとつぶの手紙

冬枯れの野で 風を待っている
きっと この日のことを
たんぽぽは 知っていた
真綿の旅立ちに 祈りをこめて

やわらかな風に 吹かれ
まるい陽だまりに 抱かれ
風と風のあいだに
のどかな波を らくがきして
おさない気球のように

あぜ道を えらんでも
コンクリートのすき間を えらんでも
ちいさな種が 根づいて
黄色い花を 咲かせていける

ほら 次の風で飛んでいく
残された わたしは
立ち尽くす しおれた一本の
燃え尽きた マッチ棒のように

にじむ朝焼けに 見送っている
うるむ夕焼けに 見守っている

手ばなす 手のひらから
こみあげる露が こぼれ落ち
土の根に うづくまる

きみが はじめての種を宿したら
吹きわたる綿毛が 届けてくれる
ひとつぶの手紙を 待っているわ

初霜を 素足で踏みしめて
木枯らしに こぶしのぬくもりを溶かし

ゆるがない空の 移ろいに

色づいても
色あせても



posted by 水月 りら at 22:19| | 更新情報をチェックする

しゃぼんだま

こわれないように
ゆっくり ふくらませていた
おおきく ふくらむように
ストローの さきから
はなれないように
ほそく
ながく
よわい
といきで
はじけそうな あわを
まもっていたよ

いつも 
いっしょにいたのに
きこえていたのに
だいすきだったから
とどいていたのは きみのこえ

プツンと とばし
なぐさめていた かぜのまよいご
つぎに ふくらむ
やくそくをしないまま

どこまで とんでいけるのか
たしかな みらいを
かぜにのせて だれを
あいしていたのか
ふくらせるたびに 
ぼくらは きづく 

ながれのまま
しぜんに うかんだ
まるいじかん
あらいたての 
ちりとほこりに ふれて
まぼろしがきえるほど
ほんとうのぼくらに
であう

あいたいと
ふくらむ いきをふき
おやすみと 
うかべる いきをふく

こわれて
あわいしずくが はちきれる
なくなったのは
うらがえしの いつわりだけ
まぶたに やきついた
いとゆうの しゃぼんだま




posted by 水月 りら at 22:17| ポエム | 更新情報をチェックする

マッチ売りの少女

ネオン街の喧騒の
ほんのり明るいすき間から
マッチ売りの少女が浮かんでくる
生地の薄くなったドレスを着て
マッチを買ってくださいと
あどけなく笑っていた

燃やしたいものは何もないから
マッチはいらないよと言うと
マッチの炎では何も燃えないわ
そう言って首をかしげた
マッチ売りの少女と出逢う

小さな炎が何かに燃えうつり
たちまち大きな炎になってしまう
だから マッチはいらないよと
もう一度 答えてみると
それは、炎に気を配らないからよ
真顔で少女が呟いた

その眼差しに吸い込まれるように
ぼくは籠ごとマッチを買ってしまった
器から溢れるほどのマッチ箱
今どき 誰も使わない

そう言えば 物語のマッチ売りの少女は
死の瞬間 一番逢いたかった
おばあさんの幻を見ていたっけ
消えないように何度も何度も
マッチを擦っていた
死の直前までマッチを擦り尽くしていた

覚えておきたいものに火を灯し
より鮮明に 記憶が炎になるほど
忘れてしまいたいものは 炎に燃やされて
無くなっていったのかもしれない
凍える雪に 冷たく
かじかんだ手足の指をしていても
少女は 笑って死んでいったから

死の瞬間 ぼくも
この籠いっぱいのマッチを
擦り尽くしているだろう
ひと粒の炎に生きていた
ひとコマの幻が 
次から次へと映ってゆく
覚えておきたいもの
忘れてしまいたいもの
灯しておきたいこと
燃やしてしまいたいこと
気を配れば 炎はあたたかく
導きは迎えに来てくれる
たった一度しかない死だと
思い込んでいた偽りを
解き放ち

少女が消えたネオン街の道端に
もう火のつかない煙草の吸殻が
数え切れないくらい捨てられていた

その吸殻のひとつが
ぼくであったとしても
ひと粒の炎に笑って死んでいく
一度かぎりの死でありながら
いくつもの死を超えてきた魂は
少女のマッチの炎を信じたぼくを
祝福してぼくの死に
消えない炎を灯してくれるだろう

posted by 水月 りら at 22:14| | 更新情報をチェックする

共鳴

風鈴の 釣鐘と
垂れ下がっている金属性の棒が
呼び合って 音色になる

水面(みなも)は 触れる風と
呼び合って
漣になり 荒波になる

指を動かす意思と
ピアノの鍵盤、
あるいは ギターの弦は
呼び合って メロディーになる

お鍋で 炊き上がる
具材は 呼び合って
出汁(だし)が混ざり合い
まろやかな味となる

形のない力の刺激は
形あるものを 呼び覚まし 
共鳴を 証にする

あなたとわたしの共鳴
表情になり 声になり
言葉になり 歌になり
味になり
光と影が 奇跡のように
融合する地点で
拍動の源が
めぐる血の流れの
速度を 同じにして
血潮を熱くする
共に

無形の融合地点で
共鳴が 生まれ
力が育ち
形を 築いていく
たとえ それが壊れても
無形の絆は
壊れない
あなたと
わたしの


posted by 水月 りら at 22:09| | 更新情報をチェックする

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