2013年10月03日

南風(はえ)/木枯らし/霊獣遣い  風物語より

     南風(はえ)


湧き出す源を助ける熱 細胞のひとつひとつに拭き抜ける やわらかさとあたたかさ 
それは神性に目覚めた 純粋意識から生まれ出て みちびく波動の成長 壊れゆくも
のを手厚く葬り 新しく生まれた透明は その言伝に添いながら 結実を信じて活か
される

     * 

求めれば黒南風は雨を連れて 渇きをなぐさめる 地には無数の水鏡 鉛色の空を慈し
み 土の精霊は潤いながら育てる緑 水かさを増した小川の水 生まれた源が恋しくな
り 時には溢れ氾濫する荒南風 忘れかけた望郷が溢れ出し 濡れた般若の嗚咽が風
になる みずから雨雲を引き裂き そこからこぼれる光の瀧に吸い取られ 我に返ると 
おだやかな白南風になってゆく いくつもの露に晴れ間を映し 唄う初夏の無彩色 







木枯らし

隙間から生まれてくる
さみしさとよく似ている

古くなるほど隙間ができている 納戸を叩く風音の 糸屑のように沁みる沈黙 
結露の吐いた溜息は こぼれ落ちてゆくほど 凍える軋みを吹き抜ける 隙間
から生まれたものは 隙間を縫うように 隙間を探し吹き抜ける どこかの遠
い場所で 物音を忘れた廃墟の轟音のように ひび割れに吹きつける

はるかな遥かな過去は
誰かを愛していたと
ひと粒の眠りを抱いて
隙間に風花を散らせている


  





霊獣遣い

水晶珠に浮かぶ虹に ひっそり暮らす 天女の金の冠から 光の糸をほどくと
糸手鞠のようにくるくる丸めて いつかのあの日、車に轢かれていた
蛇の亡骸を包みこみ 天空へと贈る

昇天した蛇の御霊の願いのように 雨の予報はかき消され 真っ青な秋空にひつじ雲 
神性(かむさが)の道標(みちしるべ)を呼ぶ風の精 ひつじ雲は天の伝言版 風は霊獣遣い 
雲の形を変えて 浮かぶ霊獣たちの群れ

北東の空から 蛇のしっぽを亀の甲羅に巻いた玄武が わが身が欠片になっても護っている 
父からの遺言のように たなびく風を運んでくる

東の空低く 稜線をまたがるように 大蛇神が横たわり 人のあたまを撫でている 北西の空高く
鱗を光らせた龍神の眼差しは 母のような白い風 何も見えない時ほど 何かに見つめられている




posted by 水月 りら at 16:04| | 更新情報をチェックする

東風(こち)/風物語より

東風は目覚めの神さま 
だから春を呼ぶ

東の空からやってきて 
雪を溶かすとき 
山かげから顔を出す 
朝陽のあいさつを 
雪解け水に伝えると 
待っているもののところに 
春が訪れる

土のなかの
眠る種は聴いている 
東風が伝える朝陽のてがみ 
きれいに咲こうと
思わなくてもいい 
素直であれば花びらは 
あざやかに映るよと

そうして海に行くと 
東風は時化になる
それは愛の試金石 
甘さだけでは春にはなれなくて
真昼までには 
幾千段のきざはしを 
昇らなくてはならない
朝陽の哀しい尊厳を 
潮騒に触れると東風は想い出し 
別人のような嵐になる

朝陽のこころを
何よりも知っているから 
春を揺り起こす
魔術師に選ばれた東風は 
朝陽から創られた
光の分け御霊(みたま)







posted by 水月 りら at 16:00| | 更新情報をチェックする

なにもなかったように

なにもなかったように雨は降り 車のフロントガラスもアスファルトも 落葉樹も濡れている

9年前と3年前に近くの川岸で起こった 女子高生殺人事件の記憶の残骸を もの言わぬ水面は物語るように揺れている

事件直後の未明から ヘリコプターの轟音が田舎町を裂き 報道陣の人いきれにコンビニの お弁当は住民の手に入らず ビジネスホテルは紙ゴミあふれる屑籠のように騒がしく 数少ないタクシーは占領されて 足のない老人たちの病院通いは滞る

騒がしくすることが解決にはならないはず どれほど掘り探っても 心の闇の背景には届かない 真実はいつも なにもなかったことなどないのに 貝殻よりも硬く閉ざされた唇に砂も吐けずに 犠牲者も偽善者も どこかで誰もとおなじ夜空を眺めているという 公平な不公平がいつもどこかに

なにもなかったように 桟橋には海上自衛艦が停泊していた 朝になると隣の造船所に 通勤の車が混み合いながら入っていく なにもなかったように流れる風景の 車を運転している人に なにもない人なんていないはず

夕方になると キッチンで野菜を刻み鍋に入れ そんな暮らしが夕日のような顔をして 雨が降り家にいるわたしは なにもなかったように過ごしていても 窓の外の雨ざらしのものは わたしの身代わりのように濡れている


なにもなかったように 沈黙して見えるものは 巻きつく蔓バラの棘を抱きしめながら それさえも見えないような笑顔になる カーテン越しの波打つ宵闇に 車の過ぎる音が公園の街燈が ひとりぼっちのブランコが 夜露に凍えている 

なにもなかったように


posted by 水月 りら at 15:58| | 更新情報をチェックする

お伽の島

  それが何処の国であったのか もはや誰も知る由はない 
もう地図でも見つけることができない 今となってはお伽の
国だったのだ 
  人が住んでいたらしいが そこには河や湖がなかったため 
農地を開拓することができずに 人の住処としては長くは続か
なかった
  たまに何かが漂流してくるたびに それらは悲劇をもたら
すものだったから 生きていない火山がうずくまり 剥き出し
の岩盤が睨みつけながら 実はその国を護っていたらしい
  いつのまにか海鳥が たくさんの卵を産み付け さわがし
い潮騒のために 昼夜を問わず鳴き続けていた
  きっと覚えていたのだろう かつての人の気配が嗚咽をあ
げていたことも 歪みながら警戒していたことも 今となって
は知らない影の意識が 潮水に眠り空の夢を見ている
  そして海鳥だけが楽園を築けるのだ 喪失とは犠牲になる
ことではなく 見えない天の国に徳を積みあげることだと 海
鳥は知っていたのかもしれない
  執着なんて最もつまらない 奪い合えば失うが分け合えば溢
れることを 無声で知らせて そこに突っ立っている木々は呆れ
ていた 
  ほんとうは未踏を希望に喩えていたのだ 何からも解放されて 
手放されたかったのだ
  誰のものでもない 地球にあるものが地球のものだなんて 地
球だって思ってはいないさ なのに南の島に戦闘機が飛び交い そ
の暮らしは脅かされている
  南の島の安寧を願っていたのだよ 歴史書にも記されなかった
遠き幻が 未だに沈没している謎の国がある




posted by 水月 りら at 15:56| | 更新情報をチェックする

あなただったわたしへー過去世の不浄霊だったわたしにー

不思議な川辺を見ていた瞳は同じだった。小石を投げつけた水面の、ひろがる波紋のようなわたしの影に重なっていたあなたの霊魂。それは、まぎれもなくあなただったわたしが、波紋を濁らせていた。聴こえていたのに、あなたであったことを置き去りにした場所を、わたしに生まれ変わることで憶い出すことができずにいた。あなただったわたしは、なりたかったわたしを呼んでいた。生まれる前のわたしが、わたしを探す声に木霊のように返事をしながら、うつろに、生まれ変わったわたしの水脈(みお)に宿っていた。
わたしが今のわたしの形象(かたち)を持つまえから、あなたはわたしが生まれることを待っていた。あなただった過去世に、わたしがあなた抱きしめることを予感した唄を、白い夢に残して―― 死の自覚をしたくなかったのは、わたしだった。あなたを苦しめていたのは、水底よりも深いところに沈んでしまったあなたではなくて、あなたの言葉を知っていながら、あなたの言葉に深く漂うことのなかったわたしだった。ほんの少し気づいていながら、鉛の洞窟に眠らせた数々の旋律の鍵を開ける勇気が持てるまで、わたしはわたしの無数の転生を水に流していた。
あなたが書き記した言葉の引き換えに、わたしが此処に在ると言っても過言ではない。あなたが見ていた川辺の向こうには、数え切れないほどの茨が迷いの森のように覆っていた。だから、たいていの人は前世の自分には逢いにいけない。それでも幽界で彷徨うあなただったわたしを迎えに行けるのは、わたしでしかなかった。あなたが待ち望んでいた光になれるまで、無我夢中に茨を切り裂き、傷痕を棄てて、行く手が火を浴びる煉獄だったとしても、あなたの見た不思議な川辺を、あなたの瞳を通してではなく、わたしのこの眼で見ることで、あなたの死が浄化されていくと分かったから、わたしのなかでもう一度生きることを、わたしもあなたに呼びかけた。あなたの書き記した言霊のように、わたしは別の涙を流しながら、あなたを抱きしめていた。涙は、わたしのものではなく、あなたのものだった。
真綿色のオーロラのなかに、いくつもの煌めく粒子が輝いて、そこに太陽の光を受けると、プリズムのように乱反射した稲妻のような虹の閃光が明滅している。それが、あなたとわたしの霊的なエネルギー。純白の魂になるほど、あたたかくなる。そのぬくもりから、あなたは明るい調和の緑を発光して、わたしに答えていた。ほとばしる光のしらべは、あなたであり、わたしであり、虹色の水晶を解き放つ足跡を創作するために、あなたとわたしは地球の呼吸がこぼれ落ちる場所へと昇華していく。
不思議な川辺には、もう誰もいなかった。



posted by 水月 りら at 15:54| | 更新情報をチェックする

かくれんぼ

まぁだだよ

鬼のいないかくれんぼ 
どこかの森の奥深くの遊園地 
幻の回転木馬をふたたび廻すため 
息をひそめて身をちぢめ
頬を寄せて影にかくれていた 
天使の少年と少女 
ふたりして

もぅいいかい?

鬼の代わりにたずねていたのは 
ながく伸びた影法師 
幻の回転木馬はいつ歌う? 
ちいさなちいさな木霊の声が 
風に漂い耳をなでていた

遠い日に蓋をした曇りガラス
閉じ込めてしまった寂しさに
月と星の光を見せてあげたくて
見つけていけないものなど
どこにもないと探し歩く 
まわりっぱなしの時の果てに 
見つかるものが愛おしく 
幻の回転木馬は錆から目覚めていた

逢魔ヶ刻のあわいで
沈みかけた夕陽に約束していた
少年が少女を見つけたら
少女が少年を見つけたら
たがいの翼を千切って交換するよと
こゆびを結んでいた

きみよ、かならず想い出すよ
出逢って ぼくたちはたがいの
分身になるんだよ

それまで曲がり角の鬼に惑わされ
くねくね道は銀の光を育てている
見つけるためのものを 
見つけられるように仕舞っていた 
おぼろ雲の向こう側 

独りでいることが孤独ではなくて 
独りだと思うことが孤独なのだと分かったから

もぅいいよ

返事しているのは
木の実を食べてる回転木馬 
翼の契りを交わすふたりを待っている 
永遠は命ではなく魂にかくれている
なな色の月の光から糸を曳き
差し出すもう一枚の翼に編みこむ
少年と少女

出逢ったら誰にも内緒で
約束は果たされる
天使の記憶を消されて
にんげんのまま 
うつつにかくれる夢と 
夢にかくれるうつつの 
かくれんぼ

まぁだだよ
もぅいいかい?
もぅいいよ

今なら言葉にできる 
ずっと伝えたくて秘めていたけれど
泡に溶けてしまいそうで 
声に出せなかったこと
少年と少女がおなじ時刻に
おなじ時空間で話していた
物語のこと
そう
今なら

みぃつけた
数え切れない寂しさを
数えてはいけなかったこと

まわりはじめた回転木馬 
だぁれもいなくても 
なぁんにも見えなくても
かさなる少年と少女 
天空の手のひらから舞い上がる 
なな色のひかりの翼 
ふたりのさいごの言葉を届けるため
もう一度

みぃつけた





posted by 水月 りら at 15:53| | 更新情報をチェックする

わたつみの夢語り

そこに海が生まれるまえから
風は知っていた
誕生はいつも異変から
奇跡のように起こりうる
まっ赤なマグマは
激しく荒れて夢を見たのだろう
炎から水になることを望み
風の灼熱の想いは
水の惑星になることだった

やがて渇く夢の予知を覆すために
風の声は聞き入れられた
微惑星が衝突しなくなり
解熱した大気から流れ出た汗の
無数のひとつぶが
天に昇り灰色の雨雲となり
如何なる障害も物ともしない
強い思念のように豪雨が降り続けていた
生み出すためにもっとも必要としていた
情熱に満ちた三百度の雫たち
蒸発しながらも湧き溢れる
一瞬のような永劫を重ねて冷ましながら
いつのまにか大海原になっていた

あれから四十億年が流れても
波立ちは止むことなく
声のない記憶を印している
それは宇宙の秘話のほんのひとかけら
月の引力に導かれて海水は
人知れず転生を繰り返す
忘却という浄化が溢れているから
海のルーツに終わりはない

今、眺めている海には
もう二度と逢うことはないのだと
告げる潮騒はざわめきながら泡になる
それを儚く想うヒトの琴線
命のふるさとと魂のふるさとは
違う時空間であったことを想い出す
見知らぬ過去も磯の薫りに漂っていた
別の命でありながら同じ魂は憶えている






posted by 水月 りら at 15:52| | 更新情報をチェックする

音無しの瀧

水の勢いは
山肌の夢から溢れ出す
流れ落ちて
岩盤と対話する飛沫の瞬き
清らかな静寂をなぐさめている
水面を包む木立の葉が
耳を澄まして
音の伝える夢語りを
風に揺れながら大気に放つ

遥かなその昔
歌い人の稽古の声明に
この瀧の音は消えたと云う
一体化した音と音の
辿り着いたところは
無になること

瀧の音を聴き入り
声のない対話を
繰り返しているふたりがいる
人同士の一体化とは
黙っていても聴こえていること
音と音の重なりは
空無に響き合う
傾聴の重なりは
無辺に木霊する

水の無はなにも消さない
なにかを生むための無になり
無限の響きが
音無しの音になる
瀧のほとばしる旋律は
訪れる人に知らせていた
無になる愛を






posted by 水月 りら at 15:50| | 更新情報をチェックする

ふたつの炎/つぼみ/黄昏の置手紙

 ふたつの炎     

たよりあうことではなく
分かりあうことでもない

支えあうこと 
それはおたがいの光に
耳をかたむけあうこと

ことばが分からなくても
炎は心の音をそっと聴いている





つぼみ

かならず ひらくから
そんなふうに信じてみたくなり
瞳をとじてみる

だって 瞳をあけていると
映るものしか信じられなくなってしまうから

まぶたのうちがわなら 
はなびらが空に輪をえがいている
知らない明日を見ることができるわ

見たことのない時の訪れを
とじた瞳は知っているのよ

風はなまえを呼んでいたの
つぼみに 希望と







たそがれの置手紙

はやく夜になぁれとだれかが零す
黒いインクの一滴がにじみながら
すこぅしずつ夕焼けを冷まして
黄昏は祝福されたように此岸から遠ざかる

できるだけ さみしいほうがいい 
おぼろ雲にかくれる星を探しにいけるから

憂いからあふれる熱い雫を送る 
ケータイをひらいてみると
こぼれ落ちていた
あなたの一番星




 
posted by 水月 りら at 15:49| ポエム | 更新情報をチェックする

せせらぎ

浅瀬に唄う
流れは
砂粒や石英の欠片を運び
地は削れてゆく
時の歩みに巻き戻されて
途切れなく
水の息吹は音色になる

わずかな抗いと
手向かわない無形を据えて
波立つ水面は
たゆたう風の譜面になる
誰かが投げた
張りつめる憂いにさえも
差しのべる腕のように
ひろがる波紋
幾度も沈めては
見えない水かさに
眠らせていた
砂塵の記憶

ひとたび穢されて
混迷に高鳴る濁流は
龍の翻る尾のように
飛沫は狂い
無秩序に消えては
宙と地をつなぐ輪を巡る

何も求めずに水は生まれ
星を寄る辺とする幾多の魂の
生に豊穣を 
死に禊を
惜しみなく与えている

水脈(みお)は忘れない
あらゆる地上に散らばり
愛おしいものを映す鏡になる
あらん限りの混沌が訪れても
誰も知らない
誰かの光のように
遥か遠くの宇宙の瀬音を
無名のものに向けて
伝えている





posted by 水月 りら at 15:47| | 更新情報をチェックする

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