2013年10月02日

雪恋慕

そっとそっと
黒い心は灰色の空になる
木枯らしのむせび泣く風音に
雲はどんどん厚くなり
ふくらむ哀しみが天空に滲みだす
雪おこしが地上に鳴り響き
砕け散った泥状の闇の欠片は
宇宙の愛に濡らされて
真っ白な雪が舞い落ちる
しんしんと深くなる夜半に
雪は音もなく降り注ぐ
黒い心を溶かして
雪は何かに必要とされている
汚れた雲に神さまを見つけ
煤けた雲にも手を差しのべる人に
雪はやさしく囁いている
まだ見ぬ愛しさの面影を
夢見るように降り注ぐ
めぐり合いの道が
開かれてゆくために
遠く離れた手と手を重ねて
引き寄せている銀世界
信じていれば朝陽に輝く
あなたとわたしをつなぐ糸
しんしんと雪は降り注ぐ
眠りにも目覚めにも
透きとおる寂しさにも
逢いたくて声を聴きたくて
あなたの夜明けを恋慕う
たとえ出逢っていなくても
雪の刹那を
あなたと分け合いたくて
そっとそっと
白い心はあたためる吐息になる
雪の結晶のすべてのひと粒に
あなたのことを唄い待っている
ちらちら しんしん
雪は天空の愛の言霊
愛しい人に祈りを届けている





posted by 水月 りら at 22:02| | 更新情報をチェックする

マイナス一度の夜更け

窓を叩く木枯らしの影
誰もいない部屋の灯かりに
小さな傷みが滲む
マイナス一度のふるえた夜が
冷たい硝子に更けてゆく
息を吐きあたためた指さき
目を凝らすとそこから
光が放たれている
金色になぁれと
光で作った環を両手で包む
しゃぼん玉のように飛ばしている
好きな人の名前を
祈りのようにつぶやき
光の行く先を見届けていた
きっと素敵なことがありますように
ひとりもいいけれど
ふたりなら木枯らしも分かち合い
おなじ体温であたため合える
ちがう鼓動で抱きしめ合える
傷痕のように木枯らしを
やさしく見つめて
その瞳から光のしずくを
垂らしているだろう
だから、あなたに届け
めぐり逢いたくて
マイナス一度の夜更けを越えて
この窓のずっと遠く
まだ見ぬあなたに
こわれることのない
しゃぼん玉を飛ばしている
あなたとわたしの幻影が
果てしない物語に生まれ変わる
マイナスを重ねたプラスの力で
木枯らしの精霊を
なぐさめるために







posted by 水月 りら at 21:58| | 更新情報をチェックする

空のシナリオ

空を覆う黒い雲は
僕らの潜在意識であることを
どのくらいの人が
知っていることだろう
僕らの魂はほんとうは誰しも
美しいのにそれを穢しているのは
僕らの手のひらなんだ
なぜって僕らはみんな
生まれる前に筋書きを描いている
僕らが生きるためのシナリオさ
それには必ず困難を乗り越える
設定がされている
産声をあげた瞬間
僕らは自分で描いたシナリオを忘れていく
そして被害者意識を選択して
僕らは苦しくなっている
けれど、それは魂の成長のために
僕らはみんな神さまと約束して
この地球に生まれ落ちてきた
誠実に最善を尽くして
あらゆる出来事を乗り越えていきながら
濁る誘惑を振り払い
富や名声の欲望や賞賛の結果を棄てて
僕らはただ誰かに何かを捧げることを
喜びとした純粋を思い出すこと
見えるものだけに
目を眩ませてしまわないように
僕らの目の前の不条理なことに
心からの手を差しのべて
相手からは何も求めずにいられる心
僕らの約束はそれだけだった
清らかな魂を失わずにいることが
真実の魂の叫びであることを
僕らは知っているのに実践できずにいる
ちっとも偉くはない肩書きに頭を下げて
空を覆う黒い雲になり豪雨を降らせている
それは宇宙が訴えているのだよ
魂の場所はそんなところじゃないって
澄みわたる空は魂の鏡なんだよ






posted by 水月 りら at 21:57| | 更新情報をチェックする

背文字

眠りのなかに隠れている
いくつもの夢の卵から
飛び出す幻は
目覚め前になると
架空の現象を映しだす
潜在している魂は
光の翼のように飛んできて
夢の卵をひとつ割ると
あなたはわたしの夢に現れる
白い靄のなかから
あなたの輪郭が浮かんでいた
出逢ってもいなくても
はっきりと面影だけが
夢のなかで夢を見るように
微笑んでいた
顔もよく知らないはずなのに
何度も出逢ってきたような
懐かしい夢の面影に
うつつの世界でも逢いたくて
あなたを待ち続けている
意識のないところで
呼び続けている
今宵の滲む月光のように
また夢の卵がひとつ割れて
あなたが現れてきますように
夢から覚めると
ほんとうのあなたが
雲の切れ目から姿を見せる
あなたは太陽だった
あなたの夢の卵を割って
あなたの夢へと飛んでゆく
あなたの夢にわたしは
映っているでしょうか
愛していると告げたい久遠の面影
現世では逢えなくても
ぬくもりを伝えたい次元の源の
あなたの時空を飛行する
あなたの手にそっと掬われて






***************************************


言葉とは、愛を伝えるために神さまから与えられたのだと思います。
相手に対する思いやりの心や、敬意、尊重を伝えるためのものであって
誰かの悪口を言ったり、暴言を吐いたり、悪態をついたりするために
使われてはなりません。
言葉とは、愛を表現するための宇宙からの賜物であり、相手を愛で包みこむために使うことが
宇宙の法則となっているように思えます。
このような言葉の法則を、すべての大人が理解していれば、
子どもの「いじめ」による悲しい結末は回避できるのはないかと思います。
子どもたちは、いじめられりいじめたりしながら、相手の立場を
理解しようとしています。相手の感じる痛みに触れることで
大きく成長しようとしています。
ぶつかり合いながら衝突します。そんな子どもたちを
公平な視点でまっすぐに双方の心が思いやれるように
正しい導きをすることが、わたしたち大人の大事な役割です。
いじめる子どもは、誰かをいじめないと自分を認めることができないから
そういう行為に走ってしまうのです。誰もいじめなくても、
自尊感情がしっかり高めていけるように、いじめる子どもたちの心のケアが必要です。
また、いじめられる子どもたちには、自らいじめている子どもに拒否を言えるような
支えが必要となります。大人に仲裁してもらったのでは、その子どもは
いつまでも自分の力で、いじめている子どもに「ノー」と言えなくなってしまいます。
わたしたち大人は、ついつい大人の力で仲裁しようとしてしまいますが、
そうではなく、いじめている子どもが自分の力で「ノー」と言えるように
陰から子どもの自尊感情を高めていけるようなケアが必要です。
子どもたちのいじめの問題は、子どもたちの問題ではなく
わたしたち大人の問題なのです。子どもたちの心の歪みは
大人の心の歪みなのです。
わたしたちは、いつも子どもたちの無益な純真な心になぐさめられています。
このことに深く感謝して、わたしたちも無益な純粋な心で
子どもたちに接していくことが大切なことだと思います。
子どもたちに愛を表現する言葉を伝えていくことも
わたしたち大人の使命でもあると思います。

世界中の子どもたちが、愛を表現した言葉の溢れる学び舎で
成長していけることを心からお祈りいたします。




posted by 水月 りら at 21:56| | 更新情報をチェックする

背文字

あなたの背に指をすべらせる
くすぐったそうにふり向くあなた

「なに描いてるの?」
「さあ何だろう?」

どんなに転げ回っても
あなたからは見えない
あなたの背中
ふたりが一番よく知っていることを
ないしょ話のように描いている
顔を埋めるなら
胸より背中がいい

指の動きがあなたから
見えることはなくても
唱える呪文の行き先は
あなたの骨の芯

望遠鏡を眺めても
顕微鏡を覗いても
見えない背
じぶんでありながら
実像を知ることのない
心の在り処のように
ふれるぬくもりも
ふれない視線も
瞳よりも指よりも深く
気配を受けとめる

あなたの背に文字を書く
こんなにも近くやすらかな具象
あなたからは遠く
観念をめぐる影法師
生まれる前は背中を合わせて
ひとつのからだを
共有していたのかもしれない

「なに描いてるの?」
「さあ、目を閉じた暗闇に
眩しく浮かんでくるものよ」





posted by 水月 りら at 21:54| | 更新情報をチェックする

必要なメディアはメディアの方からやってくる

 新聞・娯楽テレビ・娯楽雑誌などから遠ざかってしまってから彼これ五~六年になる。意識的にそうしていた訳ではないのだが、興味のないものに時間を費やすことが無駄に思えたこともある。特に震災後からは、近隣の友人とのつき合いの間隔を空け、少しずつ疎遠にしている。必要以上のつき合いは雑念が掘り出されてしまうため、絆だとか支え合いだとかは距離をあけてのつき合いから育まれると思えたからだ。その分、詩誌や詩集を読み、詩を書く時間を作れるようになっていた。ネット詩やツイッターに投稿された詩をよく読んでいたが、それも昨年から読まなくなりネットからも遠ざかってしまった。
 テレビは夕食を食べているときにNHKのニュースを見る程度。中二の息子の塾の帰りが遅いときは、ニュース以外の番組を少しだけ見ることがある。民間放送は何年も見ていない。新聞は忙しいので読まない。新聞代が勿体無いのだがたまに必要なので取っている。そんな風にここ数年で、不必要な情報源を自らシャットアウトして、楽になっていた。訪問看護の仕事は、実は新聞に縁の深い仕事なのだ。患者さんの家で排泄物の処置には新聞紙を必ず用意してもらっている。惜しみなく使えて捨てられるからだ。その時に広げた新聞記事が、偶然にも自分に必要であり興味深いものだったりすることが多くある。そんな時、新聞の日付など覚え家で読み、家にない新聞ならこっそり持って帰って読んでいた。自分から情報を求めなくても、必要な情報は情報の方からわたしのところに飛び込んできてくれる。何かに引き寄せられてやってくる厳選された情報のみ、自分を活性化させる栄養分として取り入れている。この引き寄せの不思議な現象に、新聞読まず、テレビ見ず、宣伝知らずのわたしは助けられている。不要な情報を遮断することが、豊富過多の肥満化したメディアとのつき合い方なのだと分かってきた。
 何故なら、現代の大半のメディアは加工食品のようなものだからだ。美味しそうに見えていても、化学薬品や添加物も多く含まれて汚染された状態で発信されているものが多くあるように思える。もちろん中には、未知なる知識を得たり、オリンピックやパラリンピックの感動場面や、弱い立場の民衆をサポートするための良心的なドキュメンタリーも多くあり、全ての情報が悪いとは思わない。だからこそ、毒性のあるメディアは自分から拒否しなければならないし、どれほど美味に見えても食してはならないものもある。故に選び抜かれた食材が使われているかの吟味が必要であり、メディアは受け取る側が選択していかなくてはならない。それが、現代の排気ガスが充満したような、あるいは腸内蠕動運動不良の排泄物を溜め込んだ腸(イレ)閉塞(ウス)状態のような病的なメディアから、身を守る方法のひとつだと思える。
 たいていの人は言葉に翻弄されやすい。言葉とは曖昧なものであり、いくつかの解釈ができる。例えば、「バカヤロウ」と言われれば、その言葉だけで暴力めいたものが想像される。現代の人びとの弱点は想像力の乏しくなったことだ。だから、余計に中途半端なメディアに振り回されなくてならないのだろう。「バカヤロウ」とその言葉だけを読んではならない。発信された意図を読むところに、メディアの真実性を見抜くことができるのではないだろうか。「バカヤロウ」としか言えなかった人の境遇や心情の背景に何があったのか、複眼的な目で読まなければならない。良心的でないメディアは発信される側の都合の良いように発信されている。そのことを念頭に置いて発信されたメディアの内容を疑ってみることも必要であり、また、前面、背面、左右側面からの情報収集と客観的な情報の状況分析をする必要性もあると思う。
 原発の問題も、不誠実なメディアに翻弄されていると思える。日本は核兵器で被爆したにも関わらず、当時の政府は米国の冷戦戦略を受け入れ原子力を導入し、「原子力の平和利用」と演説され、政府の手厚い保護下に置かれてきた。それ故発達した大量の電力をわたしたちは使わずにはいられなくなってしまった。原発を止めることが解決ではないと思える。それに変わる安全で環境に優しい対策を推し進めていくことが必要なのだと思う。自分の立場だけを保護しようと翻弄されている政治家たちは、あちらを立てればこちらが立たず、という状況で、彼らの意図は選挙に当選する目的のために庶民に答えようとして、あるいは自己に投資される資金に目が眩み人間への愛を見失っている。しかし、彼らの翻弄は身勝手な人間の一部であり、わたしの中にも彼らと同じ身勝手さが無いとは言い切れない。生活のための翻弄なのだと、そう思える。それぞれ違う立場の人間がせめぎ合うことよりも、原発以外で必要量の電力をコストを安くした状態で賄える方法の実施のためには、ひとりひとりが、どういう方向で努力をしていけばいいものなのか?(努力の方向性を間違えてしまえば空回りになってしまう)原発で生計を立てている人や町の生活保障はされてゆくのか?何に覚悟していかなければならないものなのか?反対と叫ぶ人々に、そのあたりのことを明確にして説明されなければならないと思う。わたし自身、原発十キロ圏内に住んでいながら、電力制限の生活のために、パソコンやケータイが使えなくなってしまったら、たちまち困ってしまう。不必要なメディアをシャットアウトしたものの、必要な活動の多くをパソコンやケータイを使っている。しかし、それは勝手な現代人の都合にしか過ぎない。生まれていない遺伝子までを破壊し、海に毒を流し母なる地球を汚し続けているということを、電力を必要としていること以上に認めていかなくてはならないと思う。他力本願かもしれないが、安全でよりコストが安く環境汚染のない電力を供給できる手段を発掘していける人材が現れることを早急に願っている。しかし、想像力の乏しくなった現代人から、エジソンやアインシュタインを上回る発明人が育っていくことが困難だと、どこからか空しい答えが跳ね返ってくるばかりなのだ。大震災で原発が破壊されたこと、大飯原発再稼動にあたり、クラゲが大量発生してフルパワーでの再稼動を妨げたことなどの自然現象は、絶対的な宇宙の創造者の意志のように思えてならない。「あれほど多くのことが犠牲になったのに、まだ分からないのか」と、穏やかな舞鶴の内海の底から唸りが聴こえてならない。
 京都府亀岡市の、未成年の無免許居眠り運転で、登校中の子どもやその保護者、中には妊娠されていた方がその車に轢かれて亡くなられた。この事件の発端は、未成年の少年が無免許で運転されていた違反を放置していた周囲の大人に大きな責任があると思う。しかしながら、メディアはそのことよりも道路状況の問題を重点的に報道したために、京都府は全域の通学路の危険箇所の調査を実施した。道路状態が良くなることは悪いことではない。けれど、無免許で運転していた少年への今までの対応を振り返り、大人は深く反省すべきだと思う。メディアでもあまり深く触れられずにいたため、本当に大事なことは流されてしまっていた。少年の乱れた行いの責任は全ての大人にあり、大人の心のズルさが、児童、少年少女の心ない事件へと顕れているのだということの認識が、わたしたちには最も大事なことなのではないかと思う。
 滋賀県大津市のいじめ問題の教育委員会の対応にしても同じようなことが伺える。いじめを喧嘩だと思ったという理由にならない理由で放置されて、学校は臭いものに蓋をするように穏便を装っていた。この問題に関しては明るみになって本当に良かったと思う。いじめは永遠に無くなることはないからだ。何故なら、いじめそのものが悪い訳ではないと思う。いじめという行為は、子どもの成長過程において無くてはならないものとも考えられる。いじめられたりいじめたりしながら、子どもはより良き人間関係とは他者にどういう態度で接していけばいいのか、身に覚えさせて成長していく側面があると思う。この子どもの成長過程に必要な人間関係のトラブルを、ただマイナス面の方向からの偏った視点で、いじめはダメだと子どもに発信すると、子どもは多少なりとも誰かをいじめている自分を否定されたように思い、大人の前で良い子を装う仮面優等生では、本当の意味での問題解決にはなっていない。いじめとは日常茶飯事の出来事であり、大人の世界にも多くあり得ることなのに、子どもの世界だけ否定されるなんて、大人はあまりにも不公平なことを子どもに押し付けてはいないだろうか。このいじめ体験をまっすぐな成長に繋げてやることが大人の大事な役割ではないか。いじめを通して、いじめられている子ども自身が、いじめる人間に自ら拒否できる強さを持てるように育むことが大人の本来の使命ではないのか。褒めて育てよと発信された安易な子育ての間違いの結果が、子どもの欲望を抑制できず、また、自立心を妨げていると思う。中には、褒めることと煽てることを勘違いして育てている人もいる。叱る、褒める、その愛のタイミングがないがしろにされている。表面に見えた部分だけで子どもを優秀にすることで満たされない欲望を果たし、子どもの栄光を自分の自慢の材料にしている大人も少なくはない。子どもが歪むのは大人の歪みの反映だと思う。
 メディアで取りあげられることは顕在した問題ばかりだ。しかし、顕在した問題には、必ず潜在している問題の数々が取り巻いている。これはリスクマネジメントの考え方、ハインリッヒの法則でも謳われている。「1:29:300この確率で事故は起こる。つまり、1件の重大事故に至るまで、29件の軽微な事故があり、300件のヒヤリ・ハット(インシデント)がある」とされている。この法則はあらゆる事件に当てはめて考えてみることができると思う。大事故になる前に無免許で運転した少年や自殺した少年がそうなるまでにも、300の潜在した問題があったと考えられる。その問題を軽視せずに大人が真摯な姿勢で向き合い注意すべきではなかったか、虐待ではなく愛の心を持った叱りが必要だと思う。真実の愛情とは厳しさから生まれてくると思えるのだ。例えば、オリンピックなどの競技で、厳しい敗戦から勝利よりも素晴らしいことがあるというスピリチュアル性の高い精神を学び得た選手のように。
潜在した問題に、わたしたちはもっと目を向けていかなければならないと思う。問題が顕在化してからでは手遅れなのだ。大きなことにならなければ安易にして流してしまうのは、人間の心の傲慢さと、やはり想像力の乏しさなのだろう。すべての発見、閃き、発明は想像から生まれている。一方的に送信されるメディアに対し受身になってしまうことで、人はメディアに想像力を奪わせている。このことにもっと危険を感じてほしい。想像力を軽視してはならないと思う。相手を慮る人間関係の形成は、この想像力がサポートしてくれていると思う。つまるところ、相手を思いやれるためには相手の心を想像しなくては思いやることはできない。この想像力が歪んでいると相手を思いやっているつもりであっても、それが相手にとって迷惑な行為だったりすることがある。想像力の歪みはその人の持つスピリチュアル性の歪みから生じるものであって、エゴイズムが強くなると歪みが大きくなる傾向があると感じている。また、想像力が五感の感受性を発達させていると思える。研ぎ澄まされた感性も想像力の導きだろう。ポジティヴな想像もその人自身の心の傷を自ら癒すことのできる自浄作用を手助けしている。想像力は人間にとって必要不可欠なものであり、芸術や文学の源もこの想像力なしでは生まれなかっただろう。美を追求する芸術や文学には、偽りの情報で混乱した混沌や邪念の全てを「相手にしない、けれど邪魔にも思わない」という精神で抱き留めていくことが大切だと思える。
 必要なメディアのキャッチは、常に何が必要なのか、自分の中で明確にしておく必要があると思う。そして必要なものだけを呼び寄せるように念じていれば、メディアの方から歩み寄ってきてくれる。この話は体験したものでないと理解しがたいことだろう。目に見えるものではないので、信憑性がないと言ってしまわれればそれまでのこと。きっと、この現象が起こる理由のひとつに、脊柱に沿ってある七つのチャクラの開き方が大きく影響しているように思える。チャクラとはサンクリット語で車輪、円を意味する語。多くの本書には「インド起源の神秘的身体論における物質的な身体(粗大身)と精微な身体(微細身)にある複数の中枢を指す。人体の頭部、胸部、腹部で、輪または回転する車輪のように光っているように感じられる箇所を言う。七つの虹と同様の光が、脊柱の基底にあたる会陰(肛門と性器の間)に赤、腹部の臍部下に橙色、胸の下部と臍の間に黄色、胸の真ん中に緑色、喉に青色、眉間に藍色、頭頂に紫、と存在し、この光の輪をメインチャクラと呼ばれている」と書かれている。チャクラに関しての詳しい説明は省くが、すべてのチャクラは愛に強く反応し、思考と行動が愛に一致していると光の輪が開通する。おそらく頭頂のチャクラが開いていると必要なメディアがメディアの方からやってくるのではないかと考えられる。いつも愛の視点で、極力他者の喜びを想像するように心がけている。もちろん、想像が違ってしまうこともあるけれど、捨て身の愛の追求を訓練していると、言葉なくとも相手の内側に入り込んだように相手の思いを感じられたりもする。そして、時々プレゼントが舞い降りてくる。それが手紙のように配達された必要なメディアなのだ。メディアだけではない。A氏の詩集が読んでみたいと数日考えていて、先日、その詩団体に連絡をした。A氏と話をすることができ、「今日、ここに来るときに電車の中であなたのことを思い出してしまったよ。そしたら、あなたから電話があってね」とA氏が話されていた。A氏のことを思ったことが、わたしの頭頂のチャクラを通してA氏の頭頂のチャクラに反応したのだろう。こんなことが多くある。やってくるメディアも何かとの目に見えない繋がりから不思議な共時性が起こりキャッチしているのかもしれない。





posted by 水月 りら at 21:53| 散文 | 更新情報をチェックする

沙羅双樹(夏椿)

     たまゆらの花の舞
      長くはなくても
     儚い吐息のほうが  
       夢見るように
       落ちてゆける
         この生を
一度限りのものとするために
      亡き明日に祈る
        無心の眠り
       空を仰がずに
   うつむいてほころぶ花
 泡沫の微笑を地に降り注ぐ
         水無月の
   雲の重みを背に受けて
       雨に打たれて
       晴れ間に光り
          潤いと
          渇きの
 あわいを行き交う風に揺れ
  ほろりほろりと鮮やかに
         雫の如く
      黄昏に落下する
 ありのままの形を崩さずに
     ささやかな記憶は
        花の置土産
    一昼夜の幕引き許し
   いのちを譲る凪の暮れ
     追うことを知らず
       願いのままに
      忘れ去られても
   明日の蕾に託す花びら
   もっとも美しい浄化を
      死と詠んでいた
   終焉に向かい生き抜く
もっとも美しい矛盾のために
       果てなく響く
  夕刻の鐘の音に見送られ
  忘れ形見のほのかな香り
   淡雪の如くよみがえる
  純白に秘めた君の火影に




posted by 水月 りら at 21:50| | 更新情報をチェックする

曼荼羅

もしかしたら
ずっと夢を見ているのかもしれない
生まれてきたこともひとつの錯覚だとしたら
ほんとうの魂の在り処は見えないところ
だけど光だけは感じている
ふたしかだから信じがたいけれど
音のないものに耳を傾けると
隣にあるものにいつだって抱きとめられている
死をたどるときに分かること
きっと誰しも背負っていた荷を全て降ろして
光に包まれて渉る三途の河
向こう岸の花野に向かう
(此岸と彼岸の境界はなぜ河なのだろうか)
水面を潜っても息苦しくないように
死という現象は呼吸を止めていく
塵と埃にまみれた業を洗い流すために
河を下っていくのだろう
今にも目覚めるかのように肌を塗り替える
死化粧の美は失った生気を再び顔に描くこと
芙蓉のように色づくくちびるから
とうめいな声が聴こえてくる
生きてるって、つかのまの夢だから
そんなに哀しまなくてもいいのよ
痛みを感じることも
分け合うための授かりものなのだと
見違えるほど綺麗になった
貴女の口元からこぼれた見えない微笑
病を抱きしめていた死の形見は
見送る人の心を清らかに鎮めていたこと
貴女の介護をしていたから
人のやさしさを数倍も感じていられたのと
連れ添っていた人は俯いて手を合わせていた
死は風のように貴女を運ぶ
(生は死が望んでいた夢だったのね)
たて結びの帯が曼荼羅に導かれていた




posted by 水月 りら at 21:49| | 更新情報をチェックする

星々に

もしも君たちが
灯かりの種を握りしめていたとしても
君たちをわたしの宝物にはしないだろう

白身の魚と青菜の食事で
ほどよい薄味の母乳を出し
君たちの味覚の感度を高めていく
手をつなぎ肩を抱き背負い唄う子守唄
惜しまずに君たちに触れていよう

公園で遊べるようになったなら
かならずキャッチボールをしよう
投げて受け合うことは相手への意識を深め
距離を行きかうボールの存在は
思いやりなのだと話をしよう

君たちが早く走れるようになれば
全力のかけっこをするだろう
走れなくなる母を追い抜き
成長を自覚する君たちを祝福しよう
わたしが転んでも振り向かず立ち止まらず
ゴールまで駆けろと叫ぶだろう
転んでも自分で立ち上がるから
安心して進むといいと背を押すだろう
わたしから生まれた君たちはわたしと似て
大きな石ではなく平坦な道で躓くだろうから
非難され恥を知り転んだ土に種を捲く
花が咲いて散って実のりまでの万丈の時に
母を追い抜いたことを思い出せばいい

もしも君たちの掌に灯かりの芽が
育ち始めていたとしても

なるべく質素な料理を君たちに並べよう
美味しいものを食べたいのなら
自分の手で掴んでみたらといじわるな母親でいよう
君たちは美味を探して汗まみれになるといい
見つからないものの方が多いだろう
偶然に見つけたら手をたたき思いっきり跳ね上がろう
空腹ならば小さなおにぎりだって
何よりのご馳走だから

もしも君たちの指先に灯かりの蕾が
ふくらみ始めていたとしても

方程式の答えは四つあると話すだろう
一つめは式の組み立て
二つ目は式の解答
三つ目は答案用紙には書けないこと
それは問題を解き明かそうとした動機
四つ目は問題が何故答えを必要としているのか?
問題の立ち位置になってみること
数字の答えを解くよりも解けないことがある
難解な答えほど自分と対話する
誰かと対話するように自分を謎解きするといい

そして君たちが病にかかったら
闘わなくてもいいと言うだろう
朝を迎えたら夜を迎えに行けるまでの
一日草は翌朝ふたたび新しい花を咲かせている
今だけを惜しみなく暮らしてみよう
ありがとうと喜びの気持ちが
病の傷を薄れさせてくれるだろう

投げ出したくなったら迷わず助けを呼ぼう
やわらかに寄り添うハンカチになり
救いの手をにぎり返してみよう
助けられるものがあり助けるものがある
助けられるものが助けるものでもある
どちらの立場にもなってみること

遠い夜空の星々の光はね
いつも地球を見ているような気がするよ
みんなが星々を見て救われているように
星の光からはこの地上が空で
地上に生きる人々が星のように
映っているかもしれないとそんな気がするんだ

もしも君たちの胸に灯かりの花が
太陽のように咲き誇ったとしても

君たちをわたしの宝物にはしないだろう
宇宙の星々が君たちを眺めているのなら
誰もが宇宙の宝物でありますように
ほら 天の川が降りそそぐ夜空
小さな星の瞬きは呼吸のようだね





posted by 水月 りら at 21:47| | 更新情報をチェックする

金環日食

その遥かなる絶妙な距離は
近づきすぎることもなく
遠ざかることもなく
太陽と月は互いの影に
重なりながら通り過ぎ
合わせ鏡のように互いを映し
月は太陽の
太陽は月の
存在を明かしている
満ちては欠けて
包みこむ腕は金の環
木の葉に散らばる光の木霊
金色の糸遊は
儚い一期一会にやさしく
果実のように潤むぬくもり
この瞬間には
もう逢うことはなくても
太陽と月はいつも
あたりまえのように
目覚めも眠りも照らしている
だれも悲しまなくてもいいように
そこから消えることはない
その遥かな絶妙な
何億光年の距離のことも
創生の秘密に委ねて
ふたたび金の環になる時が訪れる
その周期が何十年後であろうと
太陽と月にとっては
明日のできごとなのかもしれない
生と死を超えても
離れることのない位置にいる
結び目の濡れた腕のなかで
満ちては欠けて
包みこみ影は
いま金の環になる






posted by 水月 りら at 21:34| | 更新情報をチェックする

おぼろ月

胸に秘めた想いは
ときどき月から光を消してしまいたくなるから
雲に霞む下弦の三日月は黙ったまま
ほのかな記憶のようについてくる
春になってもどこかの解けない雪を
気にかけているかのように夜露は花明かりを濡らしている
手を差しのべるとひらひらと指のあわいを舞う
桜の花びらは吐息(おぼろ)よりも深いところにあなたの名を刻む
夜風になら見つかってもだいじょうぶ
月の囁きを遥かな未来まで届けていたくて漆黒を守る闇
愛しているのに何故
月の光は滲んで見えるのだろう
淡い夢から目覚めていた
分かち合うために切なくなるのと
ひっそり浮かぶ朧月


posted by 水月 りら at 21:33| | 更新情報をチェックする

見知らぬ町を歩いていても
どこかで見たことがあると
感じてしまうのは
いつかの風の薫りを覚えていたから
あの時の匂いに重なり
風は既視感(デジャヴ)の扉をひらく
やさしい魔術師
花びらも木の葉も身をまかせている
見えなくてもそこに
風の声があることを知っているから
吹かれるままに揺れている
散らざる時は光の知らせ
アスファルトに舞い落ちても
ひゅるひゅると
花びらや木の葉の亡がらを
知らないところへ運んでゆく
そこに誰も振り返らなくても
まだ命あるもののように躍らせて
吹かれるもののすべては
風の影だった
どこからか聴こえてくる
風鈴の音色も
風のふり向く輪郭だった
それらはいつだって何も語らないのに
唄を届けてくれていた
言伝は風の贈りものだった
名前を消して
あなたにわたしの詩を届けよう
どこにもいないあなたなら
誰が描いたものなのか
判ってくれるだろう
だから、わたしは
枯草にも濁り水にもなれる
風は
世界を持たない言霊だった




posted by 水月 りら at 21:26| | 更新情報をチェックする

うちゅう地図

国境のない地図のなか
ひかりの計らいによりめぐり合う
偶然が計算されて引き合っていた
空っぽの空に無条件を求めて
ぼくたちは夢中でラクガキする
線は境界ではなかったから
線は愛の表現でもなかったから
名のあるかたち名のないかたち
かたちになるものならないもの
鉛筆がヒコーキになりまっすぐ飛んで
もしくは、カーヴをえがき
意味のあることが意味のないように
意味のないことに意味があるように
傷痕みたいなヒコーキ雲を
XやYに交叉させ
果てしない空っぽに気づいていく
空というもっとも大きな空っぽは
哀しいこともうれしいことも
いっしょくたにして仕舞えるから
空っぽは寂しいことではなくて
豊かなことだったから
なにもない空の色に癒されていく
たとえば、天文単位はど離れていて
顔を見ることができなくても
おなじ波動のうえに生きているから
こだわりの線をぼくたちは知らなくて
きみの願うところがぼくの願いになる
プレゼントさせることよりも
発見を届けることに満たされて
うちゅう航路を描いて旅をする
宇宙に方角なんてないから
向いた先がぼくらの道
古傷みたいなヒコーキ雲が白く薄れて
青空はいつだって
新たな空っぽに目覚めていた
誰にも国境を曳けない空が
ぼくたちの愛になる
きみとラクガキするうちゅう地図






posted by 水月 りら at 21:25| | 更新情報をチェックする

落陽

沈みはじめた夕陽の
焦がれた真紅が散らばる
地平線に響く鼓動は
まどろみの扉をひらく
意識の抜けたからだの
休まるところ
顕在しているものは
やわらかな腕に包まれて
眠りのなかの
夢とつながる架け橋を
しゃぼんの泡のように浮かび
計り知れない脳裏の
潜在しているものたちに
傷を癒されてゆくのだった

きっと誰しも
素敵な夢を見るために
生まれてきたのだろう
そんなことを思い出すために
太陽は地平線に近づくと
青や紫の届かぬ光を
大気に埋めて紅くなる

鳥も木々も水面も
街の高層ビルも人の姿も
夕焼けを浴びると影絵になる
その黒い輪郭が
形あるものの真の姿なのだろう
淋しげに瞳を濡らして
何かを犠牲にしながら
息を継ぐ心の襞を映し出す
夕陽は澱を照らすための光だった

眺めているだけなのに
こんなにも懐かしく
愛しい人に微笑むように
やさしくなれる
昨日の夕陽を覚えていても
明日の夕陽と逢いたくなる
何度も出逢っているのに
はじめて出逢ったような
未視感(メジャヴ)に漂いながら
凪の静寂に溢れだす
生まれたときに
握りしめていたもの
それは夕陽だったのかもしれない
誕生した瞬間に手をひらき
日の暮れを手放して
産声をあげていた

巡る血潮が夕陽とおなじ
紅い色なのは手放したぬくもりを
何度も噛みしめるためなのだろう
悔恨も悲嘆も怒りも溶かして
目覚めと共に忘れたものは
翼になって昇天する
絡み合う混沌を慈しむ心が
真実のあなたなのだと





posted by 水月 りら at 21:22| | 更新情報をチェックする

あなただったわたしへ

新聞を読むと記憶にないことが蘇る
書かれているすべての人は
いつかのわたしだったということ
殺人犯も 明け暮れぬ病人も 飢える子どもたちも 
娼婦も慰安婦も 富に目が眩み名声に溺れる人も
私欲の政治を目論む人も 介護に疲れ自死した人も
地雷を踏まされている幼子も 孤独に怯える人も 
赤ちゃんをコインロッカーに入れた母親も 
どこかの国に爆弾を落とした人も 
焼きただれた人も

どこかの世界で生きていたわたし
摩擦に歪む混沌から抜け出せずに
誰かに助けを呼んでいたけれど  
助けられるのは誰でもなく
助ける人も助けられる人も
同じわたしだと気づくわたしだった

誰かへの怒りは自分への怒りなのだろう 
誰かへの罵りも自分への罵りだと目覚めるとき
誰かへの優しさは自分への優しさになってゆく
誰かに差しのべた手はわたしに差し出された掌だった 
誰かの笑顔に出逢い微笑むわたしになれたのは 
あなたのなかにわたしを感じられたから

わたしのなかにある人びとは 
幾度も生まれ変わり陰陽を体験する
思い通りにならないことを選び光の夢を見る魂 
あらゆる魂が一つだったから
人の血潮は皆紅いのだろう
あなたはいつかのわたしだった 
わたしもいつかのあなただった






posted by 水月 りら at 21:21| | 更新情報をチェックする

流星

見えない糸を護るために
瞬く光になるの、と囁く星明かり
闇のなかを交叉している見えない糸のために
ほのかな銀の明かりはやさしく照らすから
夜になると人肌に寄り添いたくなるのね
胸に垂らした星屑色の首飾りは
ふれるほどこぼれるぬくもりに
揺れる影をいちばん綺麗に映してゆくの
そして揺るがないものが
星の破片に刺さりながら泳ぐ天の河
そのための傷みなど取るに足らないものだから
遥かな距離はいつだってとうめいに輝き
流砂のように無条件に流れてゆくことを
ひとつずつ知っていくのよ
ほんとうに結ばれているものは
かならずしも一等星ではないことを
悲しまなくてもいいように
夜空の星は流れて落ちてゆくのね
その一本の線は由縁(ゆかり)のように描かれて
きみのいる場所がぼくのいる場所と
記憶していたかけがえのない一行のように
あざやかに消えてゆきながら
見えない糸をたしかなものにしているの
その絆はね、星の地底の奥深く
張り巡る樹木の根のように
数多の糸でつながっているから
愛という心は見えなくても
力強く感じることができるのよ
行き交う光が熱に生まれ変わるのは
結ばれた場所が宇宙になっていたからなの
そこは時を越えた時のない世界
流れてゆくもののなかで
流れないものが辿り着く
抱きしめ合う腕のあたたかさ
星が流れるように祈りになる



posted by 水月 りら at 21:19| | 更新情報をチェックする

白い恋人

砂時計の砂が落ちてゆくように 
新幹線の窓の風景は流れていく 
ひとつの空間からべつの空間への 
移動は時をあらわす象(かたち) 
車窓そのものが過ぎる時刻になっている 
風景を捨てながら風景を求めて
眺める人のために外を映す窓
やがて雪をかぶる富士山の頂が現れる
緑の稜線から真っ白に飛び出す輪郭
雄大なものは異質な自己を恐れていない
ケータイカメラにはそれは映らなかった
そんなに小さなものに君の感じた無限を
治めようなんて傲慢なことだよ
そんな声がどこからか聴こえて
近づき遠のき頂から少しずつ中空が視界に入り
未来からやってきた先導者のように
はっとした窓の一面を君臨する富士の全形
あなたにメールをしていた
どこにいても君とひとつになっている、と





posted by 水月 りら at 21:18| | 更新情報をチェックする

木香薔薇

空が色を忘れてしまうほど
檸檬色の薫りが吹きぬける
華やぐ木香薔薇に漂う
残照の褪せない影

真っ白な便箋には
忘れてください
たったそれだけの文字
セピア色のインクは
靡いていたあなたの髪のように
浮きあがっていた
もう逢うことはないからと言っていた
最後のあなたの声に
空が色を失くしてしまった
あの日をたどる皐月の午後

この空から色が失われたとしても
木香薔薇はひらく時を覚えているわ
花は枯れることをよく分かっているの
だから鮮やかに咲き乱れるのは
一本の樹のかなしみなのよ

そう言ってあなたが口づけていた白いカップ
うっすらと染まる薄紅を細い指で拭っていた
カフェの窓越しに見える木香薔薇
紅茶に添えられた檸檬をふくみ
鼻筋に皺を寄せてあなたは話していた

あなたのくちびるの薄紅を
思い出すたびに檸檬をかじり
酸っぱさが喉を過ぎてゆく
あなたのように鼻筋に皺を寄せてぼくは
いまだに木香薔薇に檸檬を重ねていた

からっぽのカップには白い光沢だけ
となりの空席には紅の残るカップの幻と
薄切りの檸檬が焦がれた薫りのように
記憶が空を奪うほど幻影は檸檬色になり
顔を思い出せなくなるほど
あなたは薔薇になる



posted by 水月 りら at 21:17| | 更新情報をチェックする

めぐる産声

すなおに涙をながせないときは はじめての呼吸を思い出しています 
産声は 涙をはじまりとしていたことを 覚えているはずだから

あれから星が落ちるように 別れを繰り返す
人はさよならを言うために生まれてきたのでしょうか 
闇に引っ掻かれた光の傷痕が途切れ 遠退く音信にむごんの雷鳴が
驟雨を降らせていました

去るものの背が 残す雨音に苛まれることのないように
笑顔で傘をさしている だいじょうぶ あたたかい長靴に履きかえて
残されたものは うしろ姿をいつまでも見送っています

この世に送り出された すべてのいのちは
何かに見送られて 生きていると思うから

巡りくるもののために手放し手放され
ふたたび巡りくるものを受けとるため
がらんどうに灯かりを点し待っている

木霊のように呼ぶ声に 風は黙っています
便りもなく通り過ぎていく記憶であったとしても 
むなしい残照だとは唄わない いつもひたむきだったことが 
こわれたものを抱きしめていた

腰かける人を待つ椅子に 吹きぬけた風は戻らない
夜明けが訪れるほど 過ぎた残像は古くなる
待ちくたびれていたとしても 朝陽の目覚めはあたらしく 
逝くものを見送るように 産声は生まれています



posted by 水月 りら at 21:16| | 更新情報をチェックする

かぐや姫

ほんとうは竹から生まれるよりも、人から生まれたかった。計り知れないうちの一つの奇跡は、ビックバンのように時空に爆発的膨張が起こり、子宮に着床し遅れた受精卵を助けるため、絶対的な力のものが彼女を竹に身篭らせた。愛情深い人が竹の子を探しに来たときに見つけられるようにと仕組まれていたことだった。美しく育つ彼女は人でないことに気づいていく。人から生まれていない生身は、人と交わると瞬時に砕け散ることを、月の光に告げられていた。彼女は月を眺めては涙する。愛おしく想える人と出逢うまえに、月に還らなくてならかった。幸い、彼女に結婚を申し込んだ男たちは、誰ひとりとして彼女の想い人ではなかった。彼らに出した難題の「石のはち」「玉のえだ」「火ねずみのかわごろも」「龍のいつつの玉」「つばめのこやす貝」など、はじめから何処にもなかった。幻の宝物を探しに出かける男たちは、かぐや姫への愛のためではなく、自己顕示欲と利己心の塊だったことを、彼女は見破っていた。もしも、ほんとうに彼らが幻の宝物を見つけてきたとしても、彼女は再び難題を出して誰のものにもならなかっただろう。絶世の美女であったがために、見かけの美しさに目が眩む者を憐れみ、彼女が求めたものは上澄みだけの装いではなく、遥かな月の光をきらきらと水面に映す湖のような透きとおる心。「きみは地球の人ではないね」と言う男性がいたなら、彼女は迷わずその男性を一緒に月に連れていったかもしれない。人から生まれていない彼女の悲しみの分かる人。ほんとうの自分を感じてくれる人を愛したい。多くの男性に想われたとしても、我が身を投げ出しひとりの人に尽くしたいという気持ちになれないのなら、それは途方もない虚無を飼いならすことになり、己を己自身でつまらなくしてしまうことを、彼女は本能で知っていた。月へと旅立ち、やがて彼女は人の子に生まれ直していた。「愛する」ための命であることに気づいたから、ビックバンは起こらず子宮に着床する。絶世の美女ではなく、ショートカットでミニスカートの似合う小麦色のおてんば娘の瞳の奥に、朔月の夜でもかがやく望月が映っていたなら、その少女はかぐや姫の生まれ変わりなのです。




posted by 水月 りら at 21:15| | 更新情報をチェックする

白い夢幻

あなたのかいなが
あたたかすぎて
目醒めるのが恐くなる
届かぬ月明かり
白い布にくるまれて
あなたの涙を
くちびるで受けていた
ほろ苦く溶けた甘さ
洗い流すほど
傷みを覚えていく
合わせても重ならないすき間に
埋もれた火影をあたためる

形にならない最後の滑空
なぜかしら手を放しても馨しく
それは足跡のない空虚の寄る辺

愛しさは限りなく
たった一つの刻限になる
果実は腐敗を恐れずに
豊熟の捧げる果汁は
泡沫に溶けてゆく
(泡になるまえに
 知らないあなたを知りたくて)

目覚めれば
忘れなければならない夢だとしても
生かされているのだと
純白の花びらのように囁いて
あの日、棘に触れた疼きは
撫でられて手のひらに
眠るのでしょう
憐れみ深くなれるのなら
哀しくても頷いていられる
夜が明けても
流れる藻屑に身をあずけ
一輪挿しの白薔薇の
あなたの指に零れた
光る朝露を拭っています





posted by 水月 りら at 21:13| | 更新情報をチェックする

春よ、ここに

時を忘れたくて
なごりの雪はいつまでも眠らない
天使たちは立つ春が過ぎると
その結晶の白い夢に
ちいさな種をふくませるのでしょうか
いくばくの雪が降り積もっても
音のない足音が聞こえているように
かたく閉じていた梅の蕾は
ふくらみはじめます
雪はすこしずつ解けだして
蕾と雪はさよならを言うために
ひとときをかさなり合っている
雪風を受けてもほころぶ花影は
すこしずつ近づいてくる
お日さまの光を信じているのでしょう
だから、どれほど凍えていても
沈黙に育まれた約束は目覚めて
ひらく時を思い出す
それは、蝶が海を越えてゆくように
遠くの小指に結ばれた糸を手繰り寄せている
つないだ手をはなしていても
心の手をつなぎつづけてゆく
息遣いが揺れるほど隣にいても
移り変わる結び目に何度も出逢う
地上を銀世界にした雪解け水は
何処へ旅をするのでしょうか
明日に洗い流されて深くなる願い
薄れる冬を淡く想いながら
あざやかに咲き誇る梅の花
一番星があまたの星を呼ぶように
土のなかにうずくまるものを呼んでいる
やがて、この手のひらにも馨り立つ
舞い降りてくる光の花びら
春よ、きっと逢いに行くから
出逢うことのない夏と冬をつなげて
出逢えるはずのない秋を恋慕うかのように
あふれるぬくもりを
両手にかかえて
きっと迎えにやってくる
春よ、ここに





posted by 水月 りら at 21:10| | 更新情報をチェックする

月想曲

それを愛のようにたとえていたのかもしれない 
心の隙間を埋めるために褪せてゆく花の色を 
鏡に映し閉じ込めていたかっただけ 

うつむく一輪の影にかさなり 
どこかで孤独に甘えていたから 
イルミネーションが眩しくて見落としていた星明かり 
だけど、人工的に創られたイミテーションも
繋ぎとめるためには必要だったのだろう

ほんとうは萎れてゆくものの残照を
覚えていることが大切だった 
水を与えて土の中ののびやかな根を感じ 
めぐる季節にふたたび蕾が宿り 
育てていける一瞬が永遠のためにあると気づくとき 
遥かな星の位置を隣に感じることができるのだと 
心を篭めた時の満ち欠けは 
疑問符がなくても答えてくれていた

紙切れの約束がまたひとつ千切れてゆく 
形に繋ぎとめようとするから壊れてゆく 
水面に映る月のように形にならない波にゆだねて 
それは手に取るものではなくて 
約束はいつも心に映す光のことだった 

こよいの月の光はこよいだけのものであり 
二度とこの光には出逢えない 
時間はいつだって一瞬の命を映すクリスタル 
流れるたびに生まれ変わっている 
耳を澄ますと鼓動に響く 
水面を泳ぐ月光の囁く言霊は銀河になる

遠く離れていても 深い地底に眠っていても 
呼び合う波動があれば 偶然は出逢いを結ぶ鍵になる 

生まれるまえから約束していたかもしれない 
生まれ直して生まれ変わってゆく
約束さえも生かされていて 
そのなかで生きていけるかけがえのないもの 
それは生きる表現が許されていること 

鏡の花も水の月も たしかな影のあらわれ 
だれにも握りつぶせない それはたしかな愛の姿





posted by 水月 りら at 21:09| | 更新情報をチェックする

手を洗う

あゆちゃんは手を洗う
白い泡玉にゆびをからませても
汚れが落ちないと思えるあゆちゃん
おかあさんは
お兄ちゃんの看病に疲れているから
あゆちゃんが手を洗うと
おかあさんの疲れが
ほぐれるような気がして
食事前でもないのに
外で遊んでもいないのに
おかあさんのため息の数だけ
手を洗っていた

花も星も金魚もきれいだけどね
それらには手がないから
手をつなぐこともできないし
手を洗うこともできないのよと
あゆちゃんは流れる水と話している


手を洗わないとね
病気のお兄ちゃんに
風邪がうつってしまうのよ
お兄ちゃんが風邪ひいたら
あゆの責任だって
おかあさんに叱られちゃうの
あゆだって保育園に行けないから
つまんない

水とあゆちゃんの対話を聞いて
お兄ちゃんを訪問する
看護師が話しかけていた
あゆちゃんは何も悪くはないのよ
風邪をひきながら
みんな強くなっていくのね
手を洗うのはとっても良いこと
だけどね、手には
手を守る良い菌も付いていてね
それを洗い流すと病気になるバイ菌を

跳ね除けられなくなるのよ
だから、そんなに洗わなくても
だいじょうぶ

向けられた笑顔に
あゆちゃんも笑顔になる
看護師の膝に座り
絵本を読むあゆちゃん
一冊読み終えると手を洗う
やさしいふりをしていたら魔法がかかり
いつのまにかやさしくなれるよと
絵本の言葉を繰り返していた

からだに痣(あざ)がなくても
手を洗うことに追いかけられ
じぶんでは気づけなくなるほどの
深い痛みがほつれて縫い痕を残していく
見えないささくれ刺したの誰だろう
ちいさくてやわらかな手のひらに



posted by 水月 りら at 21:06| | 更新情報をチェックする

空箱の夢

速度計の針はゼロから着々と 
回避できないレールを滑る 
生まれながらの積荷を乗せた列車は 
ひと駅ごとに時間を降ろし
空っぽになっていくけれど 
そのたびに軽さは遠ざかる 
それは等しく人に与えられたもの 
病室の呼吸器は規則正しさに砂を噛む 
気持ちのないところで意識を束ねているから 
精一杯に息を繋いでいても 
霊的な痛みの声は届かない 
それでも鼓動に響く安らぎを 
動く音に見つけて 
窓のない空の窓を探している
白い壁を覆いつたう茨のように
伸びてゆく予定調和の影 
流れる星はいつも一瞬すぎて 
何も言えずに願いは千切れ 
残り火をかけらから掬い取る 
麻痺をあたためられるのは誰かの手のひら 
空箱を撫でるようなやさしさ 
中味がなくても夢見ることができるため 
残っていたひとつの希望とは 
見えないものを信じることだったのだろう 
痛みは時雨のように蝶の舞う螺旋を追いかけて 
波立つ動線がざわめきながら扉に手を伸ばす 
動かなくても祈りで鍵を開けている 
この場所に静止していても 
生まれたものは旅人なのだ 
風が芽吹きを呼ぶころ 
ほころび始めた桜を思いだす 
記憶の花びらに触れられなくても 
想うだけで暗闇に浮かぶ可憐な匂い 
花冷えの朝露も淡い色彩には和やかだった 
そこから散り際の桜を取り出し 
視野にひろがる鉛色に撒く 
いちめんにこの花びらが散るように 
一泊ごとに風を散らせ 
目覚める忘却は花吹雪 
儚いその残照は空箱の呼吸になる
支えているものが光の手綱 
心をこめて生きることが命への恩返し 
待っている駅に列車は止まる 
体内の時間を降ろした分だけ 
訪れる体外の時間を感じていた 
それは明日の輪郭 
荷台の片隅に満たされた空箱を乗せて  





posted by 水月 りら at 21:05| | 更新情報をチェックする

粉雪

夢のとばりが
夜更けの静寂(しじま)に続いている 
唄うように話をすると 
中空につながるふたつの居場所は 
だれにも辿り着けない
秘密の部屋になる

耳を澄ましているのは 
蜜柑色の灯かりだけ
風のように流れる声と声 
行き交う言葉は
白い羽根になり舞い降りる 

飛沫のような冷えた過去にも 
ゆびをあたためるように息を吐き 
あなたのあふれる泉の水面に 
かたちを忘れてそっと沈ませていた

時の川の流れに
浮かんでいる小舟に乗って
同じ方向に進んでいくんだよ

電話を切っても耳に残る言霊は 
時を知らない夢のなかによみがえる 
窓の外には音無しの粉雪が降り積もり 
消えてゆくものでありながら 
煤けた街を塗りかえた銀世界は 
あなたの眠りの空につながる滑走路

たまには夢を忘れるくらいに
ぐっすりと眠っていてください

あなたが此処にいなくても 
となりであなたが眠る物語には 
風に形を委ねた花びらのように
ひかりのねがいが舞い散って 
化粧を落とした鏡の 
消えない染みを撫でていた

欠けた心を受け容れて降りつもる
そんな雪の結晶ほど煌めくのだよ

足音を呑みこみ足跡を消してゆく 
つみかさねたものにも降りそそぎ 
未来からの言伝のように 
雪はさみしさをやわらかくしていた 
焦がれる着信オルゴール 
ふわりとひらく返信に粉雪がきらきらと 



posted by 水月 りら at 20:20| | 更新情報をチェックする

夜想曲

雪の舞う北国の月は
漆黒の雲の向こうがわ
ひそかな想いを純白にするために
雪は舞い落ちてくるのでしょうか
南の国の夜に光を放ち
遠く離れた焦がれるものへ
雪のように消えないでと
琴線の音色を奏でる夜想曲

粉雪が降るほど道は閉ざされて
冬は春よりも北の国は
あなたの住む街から遠ざかる
それでも南の国では月の吐息を仰ぐ
ひとつの影が電波を渡り
鏡を泳ぐ時空に流れ落ちてくる

見知らぬ異国にありながら
近しい棘になり苦い毒を呑んでいた
愛の一部を愛のすべてと思い込み
引っ掻き流した血の紅さ
ゆびさきに巻きつけて
いくつかのものを終わらせてきた
あなたもわたしも

辿ってきた闇の道さえも似通う
運命の双生児だったから
風を駆け抜けて
遥かな月の光を分け合えるのでしょう
それは干からびた砂に水を注ぐため
深い地底から夢を拾いあつめて
鉱石の鼓動を語り継ぐために

その願いがひとつになると
どこかで許され解けない氷の塊が
浄化の湖になるという
月の女神が語る伝説に千切れた鉛の雲
切れ間から降りそそぐ寒月の
雪色の光を浴びる腕輪の隕石
その輝きが過去を書き変えてゆく
おなじ内観を感じた内宇宙
魂の半身を呼んでいた
光の源に選ばれていたあなた





posted by 水月 りら at 20:19| | 更新情報をチェックする

冬銀河

ちらちらと舞う雪は
君の綴る文字のひとひら
どこからあふれてくるのか
不思議に思うことも忘れて
流星群のように言葉を刻み
返信を待つまでもなく
同時に送受信をかさねていた
そんな偶然に祝福されて
限りある物語の限りない続きを紡ぎ
平家物語のことを話していたね
盛者必衰の理をあらわす
遠い古から滅亡を繰りかえし
裏打ちされた泡沫は今も漂っている
形ごと散りゆく沙羅双樹は
萎えることなく純粋を貫いている
ひとかたむきの尺度に締め付けて
閉じ込めてしまえば
美しさは枯れてゆくのだろう
とめどなく舞う雪は
見送る記憶のようだね
降り積もるものもあれば
溶けてゆくものもあるからさ
冬空のどこかに
鍵のこわれた宝石箱がいくつもあって
伝えたい想いが結晶になり
天からこぼれ落ちてくるのかな
あまたの言葉のかけらは
だだっ広い地上の
たった一点をめがけて君の肩に落下する
愛していると音無き夢に
溶けていけたなら
君の銀河を辿れるだろうか
凍える風はあたため合うために
吹き抜けているのだと信じている
言葉だけで救われるものでもないけれど
銀世界になる言葉もあるのだと
教えてくれたのは君のたなごころ
雪溶けの水はぬくもりに消えていくから
なんども沈黙させて「愛してる」と

  


posted by 水月 りら at 20:17| | 更新情報をチェックする

たもの木

廃校が決まった過疎地の小学校 
最後の校長先生が学校の扉のすべてに 
鍵をかけひと呼吸して瞳を閉じていた 
校長室の前の廊下の窓から見えていた 
たもの木は山々が色づく紅葉にも 
揺るがずに青々とそびえていた 
太さ六・一メートル、高さ二十メートル
新緑に混ざり古い茶色の葉に種子をつける 
初夏に辺り一面蒔き散らしても
すべての種が樹にはならない
樹齢百年以上の大木の歴史は出生さえも 
壮麗な謎に包まれていた 
きっと校舎の設立に目を見開いていただろう 
築かれてゆく形はいつか 
壊されてゆくことがあることを 
たもの木だけは予知していただろうか
人の一生よりも少しだけ長い百年あまりの間 
髪の形も着る服の型も子どもの遊びも流行りも 
教師の叱り方も躾も語り口調も 
ゆるやかに移ろう時の運河を静観して 
たもの木は雷鳴に裂けても尚高く伸びていた 
この木を見あげられることは 
何もかも解体されてゆく学校にとって 
たったひとつの変わらないことだった
幹の素材は硬くそれでいて弾力に富み 
その根から地底の寡黙を吸い上げて 
灼熱も厳寒もあらゆる変化を泰然自若に委ねて 
悠々と困難を渡り歩く喜びを 
身をもって伝えていたのかもしれない 
いじめられっ子にもいじめっ子にも 
明日になれば何となく笑っていられるように 
教えることに行き詰まっていた教師たちや 
ため息まじりで仰ぎ見るものたちに 
木漏れ日を降りそそぎ 
校舎の記憶に送り続けてゆくのだろう 
ここにはいつも人の対話があったことを 
百葉箱には溢れる好奇心が詰まっていたことを 
教科書に記されていない年輪の数々を 
やがて跡形も残さない校舎の影に 
かさかさと緑の葉を鳴らしていた



posted by 水月 りら at 20:14| | 更新情報をチェックする

雪姫

暮らしのために
積もる場所を失くしてゆくのに
寒波は真っ白な雪姫を
浮世に送り出さなければならない
車が走れるように
狭い私道の雪を道端に
寄せても寄せても追いつかず
半日で積雪八十四センチの
氷点下の白闇に
ちらちらと舞い踊る雪肌の少女
その影に抱かれているものは
いつだってこの世から消えたものだったから
温度を知らない結晶は
ひとつひとつがちがう形をしていても
積もることで忘れられてゆく
山盛りになり壁になり置き場所が失くなり
みんなが川に葬るものだから
水は溶かすことに追いつけなくなり
あふれた雪が水の流れをふさいでいた
国道に積もった彼女たちは
寄せられた片すみで車が通り過ぎるたびに
にんげんの代わりのように
まっ黒になって積まれたまま
黒い涙を流すために白く生まれてきたかのように
あるいは白く生まれたものは黒い涙を流すことが
宿命だったのか
この世に残されたもののために
雪姫に抱かれた魂は汚れることを
きっと恐れてはいないのだろう
吸い尽くされてしまうような
荒れ狂う吹雪が
雪姫のいちばん綺麗な姿
一瞬のおごそかな笑顔に秘められた
天の慈しみは刹那を地上に伝えることだった
来る日も来る日も雪姫が舞い遊ぶ



posted by 水月 りら at 20:13| | 更新情報をチェックする

ブリキの回転木馬

鉛色の空が木立を包むと
誰も知らない森が架空に生まれ
電波の海を渡り
手のひらにたどり着く物語
夜風にこすれた
モスグリーンの葉の節奏
弦を爪弾くような手紙の文字
余白の色は白い月灯かり
隔てられた夜に浮かぶ
幻の回転木馬はブリキになる
そこに座るのは実体のないシルエット
くるくる廻り渇く夢

どこまで更けてゆくのだろう
猫にもなれずに鳴いていたオノマトペ
明滅する足跡が消えていくたびに
木馬の関節は錆びていた
寂しさを忘れた記憶の亡がら
未送信の小箱に眠る
なぐり書きしていた一行のつづき
こなごなの紙吹雪になっても
暁は見つからない
マイナスに数えた長い空白

選ばれた出逢いに
選べることはいくつあるのだろう
選べないことも選んでいたこと

紛い物の風景に
嘘のない呪文を刻んでいた
手放す選択も
意思を超えたものから告げられて
選ばれなかった出逢いのために
ブリキの回転木馬は廻りつづけていた
あざやかな迷妄の
かすかな星影を乗せて闇夜に滲む
歯車が外れないうちに
廃墟の光を見つけて
嗄れた木霊に唄っていたブリキの涙
やさしさだけが永遠に透きとおる






posted by 水月 りら at 20:10| | 更新情報をチェックする

冬ほたる

音もなく
ひらひらと舞い踊る
クリスマスの
イルミネーションにくだけて
どこからか
冬になるとやってくる

よく見つめていると
夜空の星よりも小さな
雪の結晶のようなもの
白いコートの
肩にそでに髪のうえにも
ちらちらと
桜の花吹雪のように
乱舞する幻影は冬ほたる

知らない街の片すみの
結ばれないと知っていても
愛し合い抱き合っていたふたりの
かなしい情事のなきがらは
寒い夜に生まれ変わる冬ほたる

叶うはずのない
はかないぬくもりをつなげた
愛撫の記憶は木枯らしに
吹かれ生まれ直した冬ほたる

肩を抱き合う恋人たちが通り抜ける
イルミネーションのすきまを
いくつもいくつも
柩に置き去りにされていた
うつくしい情事の面影は
ひそかに街を飛び交う冬ほたる

おなじ息を吹きおなじ夢を
ふくらませていた愛の願いに
身を捧げていた冬ほたる
落ちては消える
手のひらにぽとりと





posted by 水月 りら at 20:08| | 更新情報をチェックする

消息

仕事のキャンセルが入った午後
多忙すぎた糸車の糸が
プツンと切れた
願ってもない空白のひととき 
机に顔を突っ伏して 
幽体離脱したかのように
からだのあることも忘れて転寝する

もしも、この瞬間
からだに意識が戻らなくなったとしても
消息をとやかく尋ねるものもないだろう 
真昼の白さには 
書き込まねばならない労が
圧縮されていて
書いても書いてもなお白く
誰もが白さに追われているから
空っぽの時を浮遊するもののことなど
閉鎖された遊園地の観覧車のように
気に止められることはない

まどろみは
日常のひとかけらを切り取り 
蒸発する水滴のような 
記憶にならない夢に包まれる 
このおぼろ気な意識の消息は
何処を迷っているのだろうか 
消息とは息が消えると書くのに
死を意味するわけではない
消える陰気に息づく陽気が
篭められていると
濃霧の抽象画のように
解釈していた夢のなか 
音のない音沙汰に帆影を繋ぎ
目覚めていた

束の間の眠りから 
椅子に座るからだに戻る魂 
次の仕事へ向かう 
行かなければ、
それこそ消息不明なのか?と
訪問先の待ち人(クランケ)は
心配するだろう 
待っているのではなく 
待ってくれているのだから 


かつて、五分遅れても叱られていた 
「あんたを待っていたよ」と、
厳かに励ましてくれたその女(ひと)は
終末期を在宅で療養していた 
臓器のあちこちを棲み処にする癌細胞に
「本体を喰い荒らせば
お前も死ぬのにね
仲良くできないものなのかね」と
笑顔が薬杯に溶けていた


消えた息の果てに
手帳に残る彼女の消息 
ケータイのメモリには
氏名と電話番号が 
消されずに残っている 

「あんたを待っていたんだ」
なんて
背を押す文字は
声もなく滲んでいた




(注釈 *クランケ=患者)



posted by 水月 りら at 20:07| | 更新情報をチェックする

虹のしぐれ

ガラスをつたう雨音の息遣いゆるやかな
稜線を描くようにワイパーは揺れている
透明な視界に滲む芒の穂は枯野に垂れて
置き去りの温もりは何処にもいない人を
装いながら過ぎる風の背を見送り幕引は
色濃く萎えて穂先を落ちる雫に身を重ね
水晶の欠片のように散らばる過去を食む

 面影は泡沫の名残に眠る夢

未消化の果実が吐いた曖昧な言葉の闇に
細い棘と苦い毒を宿し傷つける心の傷を
見つめていた黒曜石の瞳に沈む憂いの湖

 数え切れない驟雨に打たれ
 収穫を手放す秋の冬仕度
 孤独はいつだってやさしい理解者
 痛みは血の染まる薄紅色の休養を
 知らせている守りのシグナル
 
やがて灰色の雲の切れ目に滲む明るい影
虹の輪を描く言伝となな色にそよぐ旋律
洗い流した地平線と水平線を繋ぐ架け橋

 虹が消えてもなな色を
 忘れる人はいないでしょう

信じあっている絆のように時雨れる色彩
月日の流れに痛みの薄れた傷痕が記憶と
呼ばれ黄昏の幻世を濡らし導く菩提の霓(にじ)



posted by 水月 りら at 20:06| | 更新情報をチェックする

なみだの記憶

涙があふれるのは
かんじょうに揺れうごく 
にんげんだからでしょう

うれしくても おかしくても 
かなしくても くやしくても 
くるしくても はらだたしくても
内へのとおり道は熱くなり 
いちばん透きとおる瞳から
流れ落ちてきます

くちにふくむと 
しょっぱい味がひろがって
やっぱり あなたは  
海の記憶だったのね

蒼穹(そら)をいだく無辺の水鏡
曇る日には共に灰色になり
時には落下してくる 
むすうの雫を呑み
計り知れないかんじょうが
風に抱きとめられて
あなたは漣になり 
高波になり凪なり
荒む嵐に豹変することさえも
おごそかな天空に寄りそう姿だった

涙がとまらないのは
とおくはなれたあなたが 
だれかをおもって
やさしくほほえんだからでしょう
あなたのやさしさが
ほら わたしの瞳にこんなにあふれて
うつし世に映るひとすじの澪になる

こぼれた涙はあなたの旋律だったの
うつむいた人に波音をうたっていた
あなたは 海の記憶
そのひとつぶだったの



posted by 水月 りら at 20:05| | 更新情報をチェックする

無彩色の風

計画的避難区域の介護施設 車椅子の老人たちが 
輪になり 手のひらから手のひらへと 風船を突き笑い合っていた 
看護師の笛の合図に 風船は手から離れ 静かに床に転がった

「皆さん、今日でこの施設も最後となりました。
 いつか、また此処で集えたらいいのですが、約束はできません。
 約束は……できないのです……お元気で、今まで、ありがとう」

看護師の最後のあいさつに 老人たちの眉間に深い皺が寄り 
うつむく人もいた くしゃくしゃの目頭を押さえ 「ここが好きなのに」 
ただ、そう呟いて…… 約束にならない約束を ひそかに握りしめていた

歩けなくなる病にも 人は車椅子を開発し 
より良く生きられる未来を願っていたはず 
暗闇に灯かりを点して 電気の恩恵を受け 
あたたかな暮らしを育んできたはず

けれど、わたしたちはみずからの手により 放射線の扱いに失敗し 
明日を喪失した 被爆は大地の深遠まで侵襲する 営みの汚染は 
生まれた証を育む故郷を屍にして 黒ずんだ骨の断片が 記憶の彩りを物語る

どれだけ涙を流せば放射線は洗い流されてゆくのだろうか 
涙で過ちを洗い流しながら 生まれていない遺伝子の崩壊に 
わたしたちはもっと恐れていい 

たとえ不確かな言葉でも ながい鎮静を強いられた不毛の大地に 
わたしたちは約束する 無念をぬぐい 開墾の時を待ちながら 
次世代に語り継ぐ 夜明けの出逢いと黄昏の別れを 
やむなく玉手箱に封じ込めた人々のために 「きっと帰るよ」と、
冴えわたる無彩色の風に約束する


posted by 水月 りら at 20:03| | 更新情報をチェックする

モノクロームの眼差し

眠りかける記憶が忘却に
うつり変わる黄昏
伸びてゆく影は薄くぼやけて
釣瓶落としの凪に彷徨う
渇くアスファルトに
忘却も記憶の一部なのだと
アンダンテの靴音が唄う

はじめて名乗りあうのに
どこかでふれ合っていたと思える
出逢いは既視感(デジャヴュ)を彩り
見なれた傷痕を辿りながら
はじめての哀しみを感じるような
未視感(ジャメヴュ)を刻む別れの繰り返し

そぼくな糸を拒むほど縺れて絡む
その重荷をほどく鍵は
見ひらく瞳に見えないものを
信じあうことだと
分かっていながら震えた指先
沈む夕陽の淡い残照に
明日の雨を予感する
ながれる時間にとどまる面影の
儚い夢への祈りは
紅い椛の葉脈を拭う

何を失くしても
骨の欠片であったかのように
痛みだす幻肢痛
夕化粧の透間に飾られた
輪郭のない瞳
ヴェールに包まれている
白い三日月の影に濡れていた
淡い花野に帰りゆく
影絵のようなかすかな笑顔に
モノクロームの縫い痕残す
形に眠るノスタルジア
あの日を抱きしめて 
一枚からよみがえる
むすうのあなたの眼差しを




posted by 水月 りら at 20:02| | 更新情報をチェックする

曼珠沙華

涙も汗もとうめいなのに 血は何ゆえ
紅色に選び抜かれたのでしょうか

涙も汗も腺を通いからだの外へ
流れるために涌いてくるのでしょう
血はやぶれた皮膚からこぼれてきます

放っておかないで 
あふれる血の紅の ささやかな警告を

曼珠沙華の花びらは火の粉の飛び散るようなちぎれた痛みをほとばしる緋の色に共鳴しています

      *

あなたの緋色の花びらは 受胎のなかった子宮内膜の はがれた血の色に似ています それを誰が不浄と呼んだのでしょうか ほそい道をしなやかに外へと伝い 真っ赤な華をひらきます

あなたの緋色の花びらは 母胎から栄養を吸い込み 成長する最中に からだの外に墜ちた受精卵と ともに流れた黒い血にも似ています

あの日 重荷を抱えて亀裂した腰に 稲妻が走り去りました 激痛にうながされ 形にならずに流れ 逝った あの子

彼岸になると あの子の 
とうめいな微笑みは 野や畦に咲く
緋色の花びらに生まれ変わります

あなたの緋色の花びらは 
わずかな雫の尊い命を弔い
静謐に燃えています



posted by 水月 りら at 20:01| | 更新情報をチェックする

水無月の弦

東の国から訪れた三味線の
霧雨に濡れる庭に唄う旋律  
萌える緑に去る弥生の被災を語る 
葉の先を落下するいくつもの雫 
泰山木の蕾を伝い浮かぶしらじらと
蜃気楼の深淵にくつがえされた跡地が蘇る

瓦礫を除けて生き埋めの人を探す人々の 
見つからない人を避難所で待ち続ける人々の 
帰る場所を失い向かう場所も分からずに 
乏しい食料品をひと口ずつ分け合う人々の 
眠れない夜に身を寄せ合う

語られることはほんのわずかなことだけど 
語れば果てのない語り尽くせぬ 
悲しみの声がする

まるくふくらむ泰山木の蕾に雨音は
枯れた被災地の蕾を想う 
風が人知れず春を呼んでいただろう 
それでも花を探しさまよう
蝶の影は砕けていた

(来年産まれてくる蕾の子は
 逝ってしまった蕾と生き写しではないのね)

枯れない誓いを交わし枯れる約束を背負う
そんな厳かな調和を時として
受け容れられずにいる不調和 
水子の蕾は瞼のうちがわの
見えない世界に清められてゆくのなら 
瞳を閉じて祈り続けよう

命を譲ることが死であるならば 
芽吹きはその命をふたたび譲るため 
枯れてゆくものを忘れないだろう 
血を呑む肉声が響く水無月の弦 

生き抜くものが受け取り繋がるその余韻
此岸の願いに彼岸の祈りは明日の虹を生む




posted by 水月 りら at 19:59| | 更新情報をチェックする

オリーブ色の鎮魂

木漏れ日をつなぎ
陽射しに波立つ蝉時雨
アップルミントの香りが
髪を梳く指のように
なめらかに撫でている
七日目の声の行く先を

木立のすき間をからみ合う
影なる葉の黙すオリーブ色
枯れかけた茎からやわらかな新芽が
空へ遡り微熱の風に垂れさがる
ピアスのペリドットの光を開く

  涙粒よりも小さな輪廻が揺れる
  紅海に浮かぶ火山島に生まれた
  其処には宝石(ペリドット)を護るため
  無数の毒蛇が生息していた
  太陽の魔力を秘めた言伝
  ひも解く黄金石に蛇神が宿り
  たそがれる袋小路を照らすと云う
  戦いの装備具にも使われていた
  纏う人の私欲の魔を焦がす
  否定したくなる爪先を毒の礫で削り
  まるくなるプロセスを
  天衣のように無縫にほどこす
  汗にまみれた石の眼差し
  闇夜に架かる虹を浮かべている

語り紡ぐミントの色彩
とどまらない馥郁
葛藤は武器のない自己対話だったと
鳴き尽くす魂は透きとおる
若葉に堕ちた八日目の声
照り返す銀の亡骸
 





posted by 水月 りら at 19:56| | 更新情報をチェックする

一輪の約束

咲き乱れて
絡まる蔦はあふれる棘を見る
箱庭の傷は数えなった
翡翠色の葉の波折り
真紅の花びらを彷徨う白い蝶
ヴェールを脱ぎ捨て素肌になる

溶けはじめて
夏の陽射しに反射する
スプーンの銀色
甘い波がきらめきほろ苦くなる
口うつしに囁く囀り
あなたの指に
染みた薄紅を拭っていた
カラッと音をたて
グラスの氷は崩れて水になる
ガラスの湖に泳ぐ

揺らぐ風を裂き
孤独が境界を消していく
形にならない感情が
形になろうと馳せ出る吐息
真昼の白さに遊離する影になる
残照になることを否み
輪郭は真紅であり続けようとする
透明に映る秒針の沈黙
生を負う

温もりを求め合うため
生まれる前から
植えられていた孤独の華

一輪の瞬間をたばねた
百万本の永遠は
薔薇の薫りに泡になり

種をこぼす

それは一輪の約束


posted by 水月 りら at 19:55| | 更新情報をチェックする

凪の営み

「無事よ」この言葉を聞くだけで安心する 電話、メールの向こう側 芽吹きを祈る被災地の呼吸 手を取り合い支え合い助け合う譲り合う絆 逆境から生まれるドラマは温かい 誰かのために熱い涙を流し合おう それだけで誰もが優しい勇者になる

     *

うららかな陽射しに茫然と立ち尽くす 昼下がりの公園には誰もいない ブランコもすべり台も鉄棒も 空だけを眺め時の流れを凌いでいる 心配は親切ではないと風は吹きぬける 花壇の蕾はふくらみ始めていた 凪のような営みを見つけて 余った気持ちを募金する 



あなたが「不在」であると言えることに気づいたとき
あなたが「存在」していることを知る 遥か彼方の星の「不在」に光は「存在」を届け 満天の星空を地球に贈り続けている 夜になると寂しい人たちは光の手紙に優しくなる 「存在」を抱きしめて 溢れる星の雫に

     *

鳴り止まぬ震戦の遠吠えに 寡黙に祈る廃墟の都の風の声 瓦礫に消えた命の灯は 生あるものに願いを託す 吐き出された絶望は闇に終わらない 人々の手のひらを束ねたような蓮の花 信じて築こう やがて訪れる夜明けの出逢いを

      *

耳を塞ぎたくなる崩壊の一瞬 届かぬ返事が余震のようで震えている 頭(こうべ)を垂れて供える白百合 その香りに沈黙する (亡くなった仲間を浮かべて 無念に手を合わせ)悲しみを感じる余力がある 光に生まれ直すための源にして 明日の一歩に




posted by 水月 りら at 19:53| | 更新情報をチェックする

月の涙

月のまるい夜 
夜露にしっとりとした砂浜を 
素足で歩いている 
鎮まる波に月の光が零れて 
それは銀でも金でもなく 
ゆらりと揺らめく水面は漆黒(しっこく)の鏡になり 
はるかな道のりをこんなに近く、
その年輪を映している

月は不思議だね 
ほんとうはいつでも同じ形なのに 
光と影の衣装をまとい 
完全であることを避(さ)けているのは 
まるで、生きようとしている
人の姿のようだね

欠落にさまよう未熟さと 
混沌(カオス)に乱れる思考が突き刺した  
だだっ広い夜空の傷痕を
爪型(つめがた)の三日月が照らしていた 
空から離れて生きてはいけないのに 
あたりまえのように隣にあるものに 
我がままに振る舞えたのは 
指をからめる寂しさを知る
君のやさしさだった

美しい光は目映(まばゆ)くて 
美しすぎて近寄りがたいから 
人はくちづけの時に目を閉じる 
そのひとときに浸(ひた)るほど 
ほのめく輪郭の 
おぼろ気なすき間に
安らぎを見つけていた 

「いつだって、まるい光だったら、
 おそらく月を眺めてはいないだろうね」

そう言って、君が見つめていた
灯かり取りの窓に 
ほどき合う指の隔(へだ)たりが冴え返る

あの日の月の紅さよりも 
今宵(こよい)の月の白さに 
語り明かした君のぬくもりを想い出す 
秘密にすることばかりの負い目を背負い 
振る舞いとうらはらの朔月(さくげつ)は 
奏でるほど言葉を紛(まが)い物にしていたね 

忘れたいことと覚えておきたいことの 
どちらを多く、人は抱えていくのだろう 
死を迎える日まで

波打ち際にしゃりしゃりと踏む砂は 
渇く踵(かかと)をなぐさめている 
割り切れない奇数の一つの余りを 
分け合うことが思いやりなのだと囁やく月の影 
飛沫(ひまつ)の夢は波の濁音になり寄せては還る 
過去に月が流した涙のように 
たおやかな波折(なお)りは 
曲がりくねる足跡を呑み込んで 
何もなかったように
夢幻を消していた






posted by 水月 りら at 19:51| | 更新情報をチェックする

初雪かずら

はじめて雪を憶えた
日のように
色づいた白い葉は
華のように降りつもる
ひとひらの記憶に
消えた結晶を想い出し
濡れて瞳は淡い紅になる

雨に打たれ濡れた頬に
零れていた薄紅と
よく似た結晶
きみの横顔に舞い落ちて
初雪は薄紅色に出逢う
生まれて初めて
溶けてきみの色になった
初雪かずら




posted by 水月 りら at 19:44| ポエム | 更新情報をチェックする

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