2013年10月03日

華吹雪

つのる想い
あふれるほど
呼んでいた雪おこし
灰色の雪雲がやってきて
粉雪舞い落ちてくる
ひゅるひゅると鳴いている
冴ゆる夜風
花びらのように
白い闇が乱れ散る
浮き出る汚れを包む
おごそかな氷点下
その運命(さだめ)を限りなく
愛していたくなる
結晶は心のように
ひと粒ずつ異なるもの
妖精のように
衣をひるがえし舞い踊る
桜色のかすかな響きが
耳の奥を吹きぬけてゆく
その影は星が降るように
穢れた断片を洗い流している
雪という仮の姿になり
からっぽのアスファルトに
悔恨を積もらせて
捨てる思い込み
せせこましく走る
クルマの速度をゆるやかにして
白銀の路面は
走行音を消してゆく
忘れかけていた静寂の気配に
人は純白になれるのだろう
吹雪き始めた窓の外
曇りガラスに文字を書く
だれかに逢いたくなるほど
つのる想いにつもる雪
ゆび先にぬくもり灯るほど
天から迸る華吹雪





posted by 水月 りら at 16:10| | 更新情報をチェックする

ガレキ売りの少女

売れないがれきを少女は売り歩く
ガレキになる前は
どれも重宝されていたもの
家や施設やお店など
車や船の剥がれた一部
みんな愛されていたものたち
ガレキになってしまったら
人に捨てられてゆく

ガレキは要りませんか?
姿形が変われば必要のないものですか?
役にも立たない壊れた愛のことは
思い出すことも邪魔でしょうか?
人が笑い合うために
生まれてきたはずなのに
崩されてしまった
無数の記憶の無言の無念が
雨やみぞれやあられや雪と一緒に
沁みこんでいます
小さすぎる列島にはこのガレキを
葬る場所が無いのでしょうか
小さすぎると感じているのは
ほんとうに土地の狭さでしょうか?
誰にも見えない少女が
ガレキを売り歩く

ガレキは要りませんか?
天に還してあげてほしいのです
振り向く人はいるけれど
誰も少女に気づかない
絆という名のその少女は
世界中で呼ばれ続けている
みんな美しい名前を知っていても
少女の抱えるガレキを
すべて買ってあげられない
絆はいつも大事に仕舞われて
抽斗のなか眠りながら
美辞麗句になっていく
それでも少女はガレキを売り歩く
少女はガレキを愛していた




posted by 水月 りら at 16:09| | 更新情報をチェックする

風のひと  風物語より

 湖の漣のように揺れていたわね。雲が立ち込めても、天を舞い踊る風は雲をちぎり、隙間から太陽の光をやわらかに置き換えて、届けてくれていた。まるで祝福のように降り注いでくれていたから、水面が竪琴の弦のように響いていたの。その音色に聴き入っていた。静寂を握りしめて、たかめ合うことを信じていたの。
  夢ではなかったのよ。だって、夢なら風の温度を感じることはなかったはず。冷たい風もあたたかな風も、分かっていたわ。上着を着たり脱いだりしながら、吹きぬける呼吸を受け容れていたつもりになっていた。だけど、そうじゃなかったの。嵐の種を蒔けば嵐を刈り取ることに、知識ばかりで固めて 行いのない蓋をしてはいけなかったのね。
  あらゆる風の行方の場所を知っていたかしら?吹き荒む暴風もなだらかなそよ風も、すべての風の行方は未来に向かって吹いていて、この世には過去に向かう風は存在しないこと。まるで時間の流れのように風は吹いていたけれど、風は時間ではなかったの。風が吹かなくても時間は流れていたから。
  魂のつながりに刻印なんて必要なかったのかもしれないけれど、わたしたちは夢のなかでは暮らせない。時間も風も流れることのない夢の世界では、魂は育まれないことを知ってしまったの。人肌を感じていたかったのならなお更のこと。許されるまで、向き合っていきたかったのよ。綺麗ごとなんて、つまらない。突き刺さる苦渋さえも温もりの波紋に溶かしてゆく、そんな心の異変を歓迎していたかったの。
  あなたはいつまで覚えていてくれるかしら。人が生まれてきたのは、消えた記憶を想い出すことだったの。あなたから過去の墓標が消えてしまっても、風の在り処を想い出してくれるかしら。あなたが忘れてしまっても、あなたの隣を吹き抜けていく風は、真実の愛だったの。愛をありがとう、と唄っているのよ。





posted by 水月 りら at 16:08| | 更新情報をチェックする

風の記憶  風物語より

風を辿る
何かの生きざまのように
温度がある
大気に太陽が反射して
地球は青い夢を
宇宙に伝えている
風の生まれた理由
それは気圧の高低
飛行と滑空の翼のため
風媒花のため
魂の故郷を憶い出すため

   *

地球人の知らない惑星では
風は翼になれない心を運ぶ
心を持つ人のために風は
神さまに与えられた賜物だった
電波も未発達なその星の人たちは
誰しも風に耳を傾けて
遠くの人に心を打ち明けていた
その星に暮らす人びとは
風と信じ合っていた
風への祝福のために
哀しいひとりをつくることはなかった
その星では風が吹き荒れても
傷つく人は誰もなかった

   *

そよ風は神さまの風
暴風は神さまの風ではない
風鈴の短冊を揺らす風
心を閉ざし根底の見えない人に
憐れみ深く吹く
そよ風は
貧しさに注ぐ祈りのように
地球を包み続けることを
地球が生まれる前から
宇宙に約束をしていた
人には内緒にしてこっそりと                               
風はすべての人のために
そよ風になっていると
耳元を吹きぬける




posted by 水月 りら at 16:06| | 更新情報をチェックする

南風(はえ)/木枯らし/霊獣遣い  風物語より

     南風(はえ)


湧き出す源を助ける熱 細胞のひとつひとつに拭き抜ける やわらかさとあたたかさ 
それは神性に目覚めた 純粋意識から生まれ出て みちびく波動の成長 壊れゆくも
のを手厚く葬り 新しく生まれた透明は その言伝に添いながら 結実を信じて活か
される

     * 

求めれば黒南風は雨を連れて 渇きをなぐさめる 地には無数の水鏡 鉛色の空を慈し
み 土の精霊は潤いながら育てる緑 水かさを増した小川の水 生まれた源が恋しくな
り 時には溢れ氾濫する荒南風 忘れかけた望郷が溢れ出し 濡れた般若の嗚咽が風
になる みずから雨雲を引き裂き そこからこぼれる光の瀧に吸い取られ 我に返ると 
おだやかな白南風になってゆく いくつもの露に晴れ間を映し 唄う初夏の無彩色 







木枯らし

隙間から生まれてくる
さみしさとよく似ている

古くなるほど隙間ができている 納戸を叩く風音の 糸屑のように沁みる沈黙 
結露の吐いた溜息は こぼれ落ちてゆくほど 凍える軋みを吹き抜ける 隙間
から生まれたものは 隙間を縫うように 隙間を探し吹き抜ける どこかの遠
い場所で 物音を忘れた廃墟の轟音のように ひび割れに吹きつける

はるかな遥かな過去は
誰かを愛していたと
ひと粒の眠りを抱いて
隙間に風花を散らせている


  





霊獣遣い

水晶珠に浮かぶ虹に ひっそり暮らす 天女の金の冠から 光の糸をほどくと
糸手鞠のようにくるくる丸めて いつかのあの日、車に轢かれていた
蛇の亡骸を包みこみ 天空へと贈る

昇天した蛇の御霊の願いのように 雨の予報はかき消され 真っ青な秋空にひつじ雲 
神性(かむさが)の道標(みちしるべ)を呼ぶ風の精 ひつじ雲は天の伝言版 風は霊獣遣い 
雲の形を変えて 浮かぶ霊獣たちの群れ

北東の空から 蛇のしっぽを亀の甲羅に巻いた玄武が わが身が欠片になっても護っている 
父からの遺言のように たなびく風を運んでくる

東の空低く 稜線をまたがるように 大蛇神が横たわり 人のあたまを撫でている 北西の空高く
鱗を光らせた龍神の眼差しは 母のような白い風 何も見えない時ほど 何かに見つめられている




posted by 水月 りら at 16:04| | 更新情報をチェックする

東風(こち)/風物語より

東風は目覚めの神さま 
だから春を呼ぶ

東の空からやってきて 
雪を溶かすとき 
山かげから顔を出す 
朝陽のあいさつを 
雪解け水に伝えると 
待っているもののところに 
春が訪れる

土のなかの
眠る種は聴いている 
東風が伝える朝陽のてがみ 
きれいに咲こうと
思わなくてもいい 
素直であれば花びらは 
あざやかに映るよと

そうして海に行くと 
東風は時化になる
それは愛の試金石 
甘さだけでは春にはなれなくて
真昼までには 
幾千段のきざはしを 
昇らなくてはならない
朝陽の哀しい尊厳を 
潮騒に触れると東風は想い出し 
別人のような嵐になる

朝陽のこころを
何よりも知っているから 
春を揺り起こす
魔術師に選ばれた東風は 
朝陽から創られた
光の分け御霊(みたま)







posted by 水月 りら at 16:00| | 更新情報をチェックする

なにもなかったように

なにもなかったように雨は降り 車のフロントガラスもアスファルトも 落葉樹も濡れている

9年前と3年前に近くの川岸で起こった 女子高生殺人事件の記憶の残骸を もの言わぬ水面は物語るように揺れている

事件直後の未明から ヘリコプターの轟音が田舎町を裂き 報道陣の人いきれにコンビニの お弁当は住民の手に入らず ビジネスホテルは紙ゴミあふれる屑籠のように騒がしく 数少ないタクシーは占領されて 足のない老人たちの病院通いは滞る

騒がしくすることが解決にはならないはず どれほど掘り探っても 心の闇の背景には届かない 真実はいつも なにもなかったことなどないのに 貝殻よりも硬く閉ざされた唇に砂も吐けずに 犠牲者も偽善者も どこかで誰もとおなじ夜空を眺めているという 公平な不公平がいつもどこかに

なにもなかったように 桟橋には海上自衛艦が停泊していた 朝になると隣の造船所に 通勤の車が混み合いながら入っていく なにもなかったように流れる風景の 車を運転している人に なにもない人なんていないはず

夕方になると キッチンで野菜を刻み鍋に入れ そんな暮らしが夕日のような顔をして 雨が降り家にいるわたしは なにもなかったように過ごしていても 窓の外の雨ざらしのものは わたしの身代わりのように濡れている


なにもなかったように 沈黙して見えるものは 巻きつく蔓バラの棘を抱きしめながら それさえも見えないような笑顔になる カーテン越しの波打つ宵闇に 車の過ぎる音が公園の街燈が ひとりぼっちのブランコが 夜露に凍えている 

なにもなかったように


posted by 水月 りら at 15:58| | 更新情報をチェックする

お伽の島

  それが何処の国であったのか もはや誰も知る由はない 
もう地図でも見つけることができない 今となってはお伽の
国だったのだ 
  人が住んでいたらしいが そこには河や湖がなかったため 
農地を開拓することができずに 人の住処としては長くは続か
なかった
  たまに何かが漂流してくるたびに それらは悲劇をもたら
すものだったから 生きていない火山がうずくまり 剥き出し
の岩盤が睨みつけながら 実はその国を護っていたらしい
  いつのまにか海鳥が たくさんの卵を産み付け さわがし
い潮騒のために 昼夜を問わず鳴き続けていた
  きっと覚えていたのだろう かつての人の気配が嗚咽をあ
げていたことも 歪みながら警戒していたことも 今となって
は知らない影の意識が 潮水に眠り空の夢を見ている
  そして海鳥だけが楽園を築けるのだ 喪失とは犠牲になる
ことではなく 見えない天の国に徳を積みあげることだと 海
鳥は知っていたのかもしれない
  執着なんて最もつまらない 奪い合えば失うが分け合えば溢
れることを 無声で知らせて そこに突っ立っている木々は呆れ
ていた 
  ほんとうは未踏を希望に喩えていたのだ 何からも解放されて 
手放されたかったのだ
  誰のものでもない 地球にあるものが地球のものだなんて 地
球だって思ってはいないさ なのに南の島に戦闘機が飛び交い そ
の暮らしは脅かされている
  南の島の安寧を願っていたのだよ 歴史書にも記されなかった
遠き幻が 未だに沈没している謎の国がある




posted by 水月 りら at 15:56| | 更新情報をチェックする

あなただったわたしへー過去世の不浄霊だったわたしにー

不思議な川辺を見ていた瞳は同じだった。小石を投げつけた水面の、ひろがる波紋のようなわたしの影に重なっていたあなたの霊魂。それは、まぎれもなくあなただったわたしが、波紋を濁らせていた。聴こえていたのに、あなたであったことを置き去りにした場所を、わたしに生まれ変わることで憶い出すことができずにいた。あなただったわたしは、なりたかったわたしを呼んでいた。生まれる前のわたしが、わたしを探す声に木霊のように返事をしながら、うつろに、生まれ変わったわたしの水脈(みお)に宿っていた。
わたしが今のわたしの形象(かたち)を持つまえから、あなたはわたしが生まれることを待っていた。あなただった過去世に、わたしがあなた抱きしめることを予感した唄を、白い夢に残して―― 死の自覚をしたくなかったのは、わたしだった。あなたを苦しめていたのは、水底よりも深いところに沈んでしまったあなたではなくて、あなたの言葉を知っていながら、あなたの言葉に深く漂うことのなかったわたしだった。ほんの少し気づいていながら、鉛の洞窟に眠らせた数々の旋律の鍵を開ける勇気が持てるまで、わたしはわたしの無数の転生を水に流していた。
あなたが書き記した言葉の引き換えに、わたしが此処に在ると言っても過言ではない。あなたが見ていた川辺の向こうには、数え切れないほどの茨が迷いの森のように覆っていた。だから、たいていの人は前世の自分には逢いにいけない。それでも幽界で彷徨うあなただったわたしを迎えに行けるのは、わたしでしかなかった。あなたが待ち望んでいた光になれるまで、無我夢中に茨を切り裂き、傷痕を棄てて、行く手が火を浴びる煉獄だったとしても、あなたの見た不思議な川辺を、あなたの瞳を通してではなく、わたしのこの眼で見ることで、あなたの死が浄化されていくと分かったから、わたしのなかでもう一度生きることを、わたしもあなたに呼びかけた。あなたの書き記した言霊のように、わたしは別の涙を流しながら、あなたを抱きしめていた。涙は、わたしのものではなく、あなたのものだった。
真綿色のオーロラのなかに、いくつもの煌めく粒子が輝いて、そこに太陽の光を受けると、プリズムのように乱反射した稲妻のような虹の閃光が明滅している。それが、あなたとわたしの霊的なエネルギー。純白の魂になるほど、あたたかくなる。そのぬくもりから、あなたは明るい調和の緑を発光して、わたしに答えていた。ほとばしる光のしらべは、あなたであり、わたしであり、虹色の水晶を解き放つ足跡を創作するために、あなたとわたしは地球の呼吸がこぼれ落ちる場所へと昇華していく。
不思議な川辺には、もう誰もいなかった。



posted by 水月 りら at 15:54| | 更新情報をチェックする

かくれんぼ

まぁだだよ

鬼のいないかくれんぼ 
どこかの森の奥深くの遊園地 
幻の回転木馬をふたたび廻すため 
息をひそめて身をちぢめ
頬を寄せて影にかくれていた 
天使の少年と少女 
ふたりして

もぅいいかい?

鬼の代わりにたずねていたのは 
ながく伸びた影法師 
幻の回転木馬はいつ歌う? 
ちいさなちいさな木霊の声が 
風に漂い耳をなでていた

遠い日に蓋をした曇りガラス
閉じ込めてしまった寂しさに
月と星の光を見せてあげたくて
見つけていけないものなど
どこにもないと探し歩く 
まわりっぱなしの時の果てに 
見つかるものが愛おしく 
幻の回転木馬は錆から目覚めていた

逢魔ヶ刻のあわいで
沈みかけた夕陽に約束していた
少年が少女を見つけたら
少女が少年を見つけたら
たがいの翼を千切って交換するよと
こゆびを結んでいた

きみよ、かならず想い出すよ
出逢って ぼくたちはたがいの
分身になるんだよ

それまで曲がり角の鬼に惑わされ
くねくね道は銀の光を育てている
見つけるためのものを 
見つけられるように仕舞っていた 
おぼろ雲の向こう側 

独りでいることが孤独ではなくて 
独りだと思うことが孤独なのだと分かったから

もぅいいよ

返事しているのは
木の実を食べてる回転木馬 
翼の契りを交わすふたりを待っている 
永遠は命ではなく魂にかくれている
なな色の月の光から糸を曳き
差し出すもう一枚の翼に編みこむ
少年と少女

出逢ったら誰にも内緒で
約束は果たされる
天使の記憶を消されて
にんげんのまま 
うつつにかくれる夢と 
夢にかくれるうつつの 
かくれんぼ

まぁだだよ
もぅいいかい?
もぅいいよ

今なら言葉にできる 
ずっと伝えたくて秘めていたけれど
泡に溶けてしまいそうで 
声に出せなかったこと
少年と少女がおなじ時刻に
おなじ時空間で話していた
物語のこと
そう
今なら

みぃつけた
数え切れない寂しさを
数えてはいけなかったこと

まわりはじめた回転木馬 
だぁれもいなくても 
なぁんにも見えなくても
かさなる少年と少女 
天空の手のひらから舞い上がる 
なな色のひかりの翼 
ふたりのさいごの言葉を届けるため
もう一度

みぃつけた





posted by 水月 りら at 15:53| | 更新情報をチェックする

わたつみの夢語り

そこに海が生まれるまえから
風は知っていた
誕生はいつも異変から
奇跡のように起こりうる
まっ赤なマグマは
激しく荒れて夢を見たのだろう
炎から水になることを望み
風の灼熱の想いは
水の惑星になることだった

やがて渇く夢の予知を覆すために
風の声は聞き入れられた
微惑星が衝突しなくなり
解熱した大気から流れ出た汗の
無数のひとつぶが
天に昇り灰色の雨雲となり
如何なる障害も物ともしない
強い思念のように豪雨が降り続けていた
生み出すためにもっとも必要としていた
情熱に満ちた三百度の雫たち
蒸発しながらも湧き溢れる
一瞬のような永劫を重ねて冷ましながら
いつのまにか大海原になっていた

あれから四十億年が流れても
波立ちは止むことなく
声のない記憶を印している
それは宇宙の秘話のほんのひとかけら
月の引力に導かれて海水は
人知れず転生を繰り返す
忘却という浄化が溢れているから
海のルーツに終わりはない

今、眺めている海には
もう二度と逢うことはないのだと
告げる潮騒はざわめきながら泡になる
それを儚く想うヒトの琴線
命のふるさとと魂のふるさとは
違う時空間であったことを想い出す
見知らぬ過去も磯の薫りに漂っていた
別の命でありながら同じ魂は憶えている






posted by 水月 りら at 15:52| | 更新情報をチェックする

音無しの瀧

水の勢いは
山肌の夢から溢れ出す
流れ落ちて
岩盤と対話する飛沫の瞬き
清らかな静寂をなぐさめている
水面を包む木立の葉が
耳を澄まして
音の伝える夢語りを
風に揺れながら大気に放つ

遥かなその昔
歌い人の稽古の声明に
この瀧の音は消えたと云う
一体化した音と音の
辿り着いたところは
無になること

瀧の音を聴き入り
声のない対話を
繰り返しているふたりがいる
人同士の一体化とは
黙っていても聴こえていること
音と音の重なりは
空無に響き合う
傾聴の重なりは
無辺に木霊する

水の無はなにも消さない
なにかを生むための無になり
無限の響きが
音無しの音になる
瀧のほとばしる旋律は
訪れる人に知らせていた
無になる愛を






posted by 水月 りら at 15:50| | 更新情報をチェックする

ふたつの炎/つぼみ/黄昏の置手紙

 ふたつの炎     

たよりあうことではなく
分かりあうことでもない

支えあうこと 
それはおたがいの光に
耳をかたむけあうこと

ことばが分からなくても
炎は心の音をそっと聴いている





つぼみ

かならず ひらくから
そんなふうに信じてみたくなり
瞳をとじてみる

だって 瞳をあけていると
映るものしか信じられなくなってしまうから

まぶたのうちがわなら 
はなびらが空に輪をえがいている
知らない明日を見ることができるわ

見たことのない時の訪れを
とじた瞳は知っているのよ

風はなまえを呼んでいたの
つぼみに 希望と







たそがれの置手紙

はやく夜になぁれとだれかが零す
黒いインクの一滴がにじみながら
すこぅしずつ夕焼けを冷まして
黄昏は祝福されたように此岸から遠ざかる

できるだけ さみしいほうがいい 
おぼろ雲にかくれる星を探しにいけるから

憂いからあふれる熱い雫を送る 
ケータイをひらいてみると
こぼれ落ちていた
あなたの一番星




 
posted by 水月 りら at 15:49| ポエム | 更新情報をチェックする

せせらぎ

浅瀬に唄う
流れは
砂粒や石英の欠片を運び
地は削れてゆく
時の歩みに巻き戻されて
途切れなく
水の息吹は音色になる

わずかな抗いと
手向かわない無形を据えて
波立つ水面は
たゆたう風の譜面になる
誰かが投げた
張りつめる憂いにさえも
差しのべる腕のように
ひろがる波紋
幾度も沈めては
見えない水かさに
眠らせていた
砂塵の記憶

ひとたび穢されて
混迷に高鳴る濁流は
龍の翻る尾のように
飛沫は狂い
無秩序に消えては
宙と地をつなぐ輪を巡る

何も求めずに水は生まれ
星を寄る辺とする幾多の魂の
生に豊穣を 
死に禊を
惜しみなく与えている

水脈(みお)は忘れない
あらゆる地上に散らばり
愛おしいものを映す鏡になる
あらん限りの混沌が訪れても
誰も知らない
誰かの光のように
遥か遠くの宇宙の瀬音を
無名のものに向けて
伝えている





posted by 水月 りら at 15:47| | 更新情報をチェックする

星の種

木枯らしが窓からながれ 
吐いた息が白くなる
朝を迎えたら君とわたしは 
おなじ願いの扉から 
異なる世界に目覚めていく

ひとつが叶うとまたひとつ 
叶えたくなるものが突き刺さる 
叶わない願いほど 
あたためたくなるけれど
早すぎる星の流れに
暗黙の約束がすり切れていた

散らばる星々は 
紅い恒星も青い惑星も 
生まれるまえは 
誰も見たことのない 
ひとつの名の無い星だった 
分かち合いの夢を見る
大きな天体は 
寂しさを知りたくて 
粉々に砕けたその星のちりぢりが 
涙を浮かべるために流れていく 
それが流星群なのさ

聴き入っていた君の話
夜空を埋め尽くす
星屑の終わりなき前世
くずれ落ちる星影に
名前なんて初めからなかったの
名無しで生まれた命に
名前をつけている
無限の空間を宇宙と
誰かが名づけたように
星と星に言葉のラインを曳いて
星座と名づけられたように
見知らぬ星どうしが
引き寄せたラインで
電子メールが流れ落ちて

吐いた息のあとに
息が吸えなくなってしまうように
吸った息のあとに
息が吐き出せなくなってしまうように
無言で消えた彗星は
どこかで光の種になっているのかな

流れ落ちた星たちが
消えないコンペイトウに
なったらいいのにと
縮まらない距離に祈っていたのは
合わせた呼吸の足跡を
遥かな過去の傷痕に
重ねたくはなかったから

体温だけをぶつけて
幕開けの夜空にえがいていた
未来から舞い降りてくる
結ばれた月下の紅い紐を
君のうしろ姿に届けていよう

きっと空中ブランコを漕ぎながら
行ったり来たり
きっと蜘蛛の糸を綱渡りしているの
歩き初めた一歩のような足どりで
わたしと瓜ふたつの君に
君もわたしも流れる

星の種だから





posted by 水月 りら at 15:45| | 更新情報をチェックする

姫扇水仙

姫扇水仙が咲き乱れる
文月の汗ばむ太陽を照り返し
あぶら蝉がざわめく庭を
彼女と散歩する

「転ばずに歩けるかしら
誰にも逢いたくないのよ
病気の姿を見られたくないから
なのになぜ、どうしてかしら
ほんとうはむしょうに
人恋しくなるのよ」
呟く彼女の手を引いていた

七日前に
固かった蕾はふくらんで
ふくらむ蕾は花になり
小さな庭の景色は
日捲りのように早変わり
今日咲いている花も
七日後には萎んでいるのだろう

「癌で亡くなった夫がね
死ぬ前には全身を痛がっていたの
あの時わたしには
その痛みが分からなかった
知らない痛みは身に重ならないと
知らないままなのよ
今なら分かるの、あの人の痛み」

膝元で群生している姫扇水仙が
彼女の呟きを聞いていた
鮮やかな金魚色
揺れる鰭のように泳ぐ
緑の波のなか
金魚になる夢はひそやかに
遠くに行きたくても
口には出せなくて

どれだけの痛みを知れば
人の痛みのすべてを知ることが
できるのだろうか
分かっているつもりでも
分からないことのほうが多いのだろう
どれほどの体験をしても
知り得ることはほんの僅かのこと
知らないことを多く残して
人は亡くなってゆくのだろう

おぼつかない足どりで
庭の散歩道を歩くだけで精一杯
朱色の花に彼女は手を添える
その指の間を小さく揺らめき
風にそよぐ花

もう闘わなくてもいいのに
そよぐ、という言葉
戦う、という漢字が使われている
戦争の、戦に、ぐ、と書いて
「そよぐ」と読む
揺れることが
戦うことなのだろうか
揺れるとは身を委ねること
ならば真実の戦いとは
刃向かうことではなくて
吹かれるままに
生きていくことなのだろうか

そよぎながら生きている
彼女の瞳の奥に
ひと粒の炎のように
焼きついていた姫扇水仙



posted by 水月 りら at 15:44| | 更新情報をチェックする

ブリキの薔薇

夜になると人形は泣き出します。亜麻色の髪の長い蒼い目をしたフランス人形でした。髪には桜の花飾りをつけていました。白いドレスに銀色の帯を巻いていました。

ガラスケースから「しくしく」と聞こえてくるので、毎夜、人形を抱いて眠ることにしていました。「なぜ泣くの?」人形の髪を撫でながら尋ねると「からだの中に咲いたブリキの薔薇が蔓延るたびに疼いて眠れないの」人形の涙が木の葉から滴る雨垂れのように、わたしの手のひらを濡らしました。

「人形だからお薬も飲めないわねぇ。人形だから瞳を閉じて、安らぐこともできないわねぇ。」人形の濡れた瞳を指で拭いながら、ほんとうにからだの中にブリキの薔薇が広がっているのかなと半信半疑に思っていました。

「ねぇ、わたしをバラバラにして」泣き続けて哀願する人形のからだを、撫でることしかできませんでした。朝になると彼女は人形に戻るので、ガラスケースに飾りました。それが彼女にとって一番辛いことだと知っていても、そうすることしか思い浮かばずに、いっそのこと、人形の雪肌を壊して、ブリキの薔薇を取り除こうと思案してみても、二度と元の姿に戻らないことのほうが恐くて、砕けそうな嗚咽を、夜毎胸に抱きしめました。

「わたしを憎んで。そうしたら、わたしを
 捨てられるでしょう。傷みに耐えているよ
 り、あなたに憎まれて殺されたほうが楽に
 なれそうだわ」

ある夜、耐えかねた人形の嗚咽が悲鳴に変わりました。耳の奥深く、不協和音のような響きが不安定に揺れて、大木を切り裂く雷鳴のような轟きが、積み重ねてきたぬくもりをあっけなく崩し始めました。ほんとうは、ずっと、優しく聴いてあげたいと思っているのです。豪雨に打たれても貫く強さで守っていたいのです。けれど、そうすることが、人形にとってもわたしにとっても、ほんとうに良いことなのか?と、すきま風のような問いかけが針のようにチクチク刺さり、気がつくと、わたしは人形の手足を外していました。

ほんとうに、ブリキの薔薇なんてあるのだろうか?あるとしたなら、なぜ、罪なきものを奪うように咲こうとするのだろうか?現実への否定を疑問に置き換えて、人形のからだをバラバラにしてしまったのです。

人形のからだからは、咲き乱れていたブリキの薔薇が出てきました。鉛色の棘を持つ小さな薔薇が群生していました。その薔薇は、彼女の香りを放っていました。人形を苦しめていた薔薇も、彼女の一部であり、彼女の無意識でもあったのです。

人形が人形であることを呪い始めたとき、彼女を鏡に映してあげれば良かったのです。人形がじぶん自身で、鏡に映るおのれの芯の美しさを知ることができたなら、彼女は自らの力でブリキの薔薇を打ち砕くことができたのでしょう。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね」

人形のからだは接着剤では最早くっつかず、
涙の指が皺になるまでふやけました。
顔だけ残った人形はもう泣かなくなり、
微笑んでいるように蒼い瞳が潤んでいました。



posted by 水月 りら at 15:42| | 更新情報をチェックする

白薔薇幻想

はねかえる理性に
感性が木霊する
その花びらを
汚さないために
吹きぬけた風
きみのなかに
白い馥郁が生まれて
赦しは紡がれる
目覚めはいつも
朝の雫をかぞえていた

理性と感性のあわいを
さまよう迷い子は
生まれ変わっても
白のヴェールをまとう
花になるまで辿ってきた
いくつもの棘
痛みが分かるほど
鮮やかな白になり
眠らない祈りのなかに
沈黙に咲き誇る

やがて枯れゆく時
初めて解放される
薔薇であることから
魂であることに気づき
ひらりひらり
萎えた白は落下する
夢の殻を脱ぎ捨てて
汚れたものが
すべての忘却と記憶が
純白に満ちてゆく

花ほころぶ泡沫から
枯れて散る永遠を授けられ
形の喪失から
愛だけが不変になる
その摂理は悠久の種のなか
きみの影なる光が照らす
生きる幻想の飛躍を


posted by 水月 りら at 15:41| | 更新情報をチェックする

待宵月

もうすぐ満たされてゆく
ほんの少しの欠片に
静寂を沈めていた
それでも刻々と時計の針は
時の流れを呟いている
まだ此処にはいない残照を
待ち焦がれて
鮮やかな夢を浮かべている
あなたが主護神であっても
愛していてもいいでしょうか
まだ生まれ変わっていなくても
生まれる前から
愛していたと告げたなら
あなたは信じてくれるでしょうか
引き寄せて扉は開いています
もしも、あなたに
砕き切れない哀しみがあるのなら
近づいてくる望月の
人肌のぬくもりを捧げています
愛し合い
天地が逆さまになる運命(さだめ)を
共に背負っていたいのです
この想い あなたとわたしが
ひとつの命を生きてゆく決意を賭けて
交わした約束だったのです
あなたとわたしが
ひとつになっているのが
いまのわたし
ひとつになっても潜在したあなたに
出逢うために生まれてきた
もうすぐ満たされてゆく
闇にひっそり夜露を滲ませて
黒い雲をかき分けながら浮かぶ
十三夜の待宵月






posted by 水月 りら at 15:39| | 更新情報をチェックする

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