2013年09月04日

始終「にじのはし」第4章 2

 受容

あなたの死の便りを耳にしたのは
雪の舞い降りる季節(とき)だった


パーキンソン病の症状は進行するばかりで
食事もうまく飲み込めなくなり
肺炎になって入院したけれど
治療を拒否して すぐに退院した
娘たちに苦労はかけたくないから
家で安らかに逝きたいのだと
あなたは家で家族に看取られながら
眠られたと、いう話だった

わたしは思い出していた
つい、この前のこと
あの日も窓の外 木枯らしに粉雪舞う時

 ひとりでは何にもできひんわ
 手が震えて思い通りには動かへんわ
 転びそうになって歩けへんし
 人の迷惑になるばっかりや
 それでも 死ぬに死ねずにいる
 もう いいのにね
 こんなに背中曲がって
 厄介者には、終わりがきたっていいのにね

陽の当たらない台所
流し台の下に敷かれた
唯一あたたかい一畳半のホットカーペット
二人してしゃがみこんでいた

 今まで みんなのために充分に
 尽くされてきたのでしょう
 そんなこと思わなくっていいよ

そう話しても あなたは俯いてしまう
負い目を感じていた あなた
 
 人間は桜のように散っていけへんよ
 死に方は誰にも選べへんわ

舞い散る雪のように
ちらちら あなたは呟いた
カーペットの沁みに
小さな声が吸い込まれていた

花びらが散るような雪の中
てのひらにおちては消えた

病に巻かれながらも
汗水ながして生きた道
散りゆく人生(とき)を受け止めて
臨んだ最期は花吹雪だったよと
雪に語る
あなたが笑っているようで
頷いていたようで


ちらちらとあなたの言葉
何度も思い出して
街は白く変わっていく



  三叉路

不思議ね
  行きたいところに
 行けなくても
一本道は 三叉路に
  たどり着く

立ち止まる
   振りかえる
 誰かと出逢う 三叉路
別々の道から
  偶然を装いながら
  必然につながっていた

マウスをクリックすると
  窓から 空が降り
一本道と一本道が 呼び合って
 数え切れない 三叉路に
   見たことのない星座が
いくつも えがかれている
  遠い宇宙から
    手紙のように
言の葉は てのひらに

電源が失われても
  三叉路で手を振っている

わたしは ここよ


  
綿の花

萎えるほど
色づいて
紅くなる
綿の花

純白の花びらは
暮れる命に
あなたの名を
呼んで

焼きつけて
焦がれて
あでやかに
紅(くれない)の幕を閉じ

枯れてゆくまで
あなたの名を
呼んで


  
根っこ

公園の木
枝から伸びた か細い小枝
子どもたちが パチパチ折って
遊んでいた

夜になると
木の根っこは
みろく菩薩の手になって
大きく 深く
長く 伸びていく
大地と同化して

明日 子どもたちが
遊びにきても 大丈夫
手折られても
また 生えかわる
土にかくれた 菩薩は
にっこり 笑っていた

ひ弱い枝は
風の吹くまま 揺れている
小さな 赤ちゃん葉っぱが
生まれていた


  紡ぐ

言葉を紡ぐ 喜び
それは ひとつの
出逢いと似ている

一粒の雨を
一枚の花びらを
ひとひらの雪の結晶を
見えない塵を

この手のひらに
受けとめられた
ひとつの軌跡と 
似ている

そして 
煮っ転がしを 
作る時間と似ている
手間ひまかけて
何度も味見して
おふくろの味を
見つけた発見と似ている

言葉を紡ぐ 喜び

美味しい!と
あなたの顔が ほころぶ
瞬間

そのものだ!


  ことだま

あわゆきの はなびらは
 いとゆうに ちりみだれ
  しめやかに まいおりて
   てのひらに こぼれおち
    るりいろの そらをよぶ



 栞


一冊の本の重みに
だまって はさまれている

ながれる時間のままに
めくれる頁の 言葉の旅をする

ちいさな瞳で
果てしのない 空一面を
見わたしているように

一冊にえがかれた
あまたの言葉から 
滴りおちている
汗と 涙と 血と 肉に
さりげなく はさまれている

呟き 嘆き 笑み 叫びに
しずかに 寄り添って
うすい紙一重で 受けとめている



  つきのなみだ

地上にあふれた ことばが
月にとどくとき
月は そっと
なみだをながす

ちいさな雑草
いっぴきのアリ
鳴きつくす せみしぐれ
枯れていく はっぱ
だまっている 貝殻
捨てられた 紙くず
とどこおっている 澱
うごかない てあし
話せない くちびる

ことばにならないけれど
ことばよりも とうめいな風のこえ

しずかな夜
月は耳をすませて
きいている
形にならない
ことばの影

それは 月ににじむ
むすうのなみだの沈黙 
そのしじまのために
月はくらやみにほほえみ
夜から薄れゆく
透きとおる光のために
月はなみだを
ながしている




posted by 水月 りら at 23:34| 詩/ポエム | 更新情報をチェックする
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